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 カーテンを通して柔らかく差し込む陽光で目が覚めた。ぼんやり目を開けると2人用のベッド、白いシーツの上に少し間をあけて薫さんがいる。……いる?かな、多分、さすがに、うん、薫さんだろう。
 いかんせん私は目がハチャメチャに悪いのでこのくらいの距離だと薫さんの顔がしっかりとは見えないのだ。せっかく薫さんが眼鏡を外している(はず)なのに……。というのも、薫さんは撮影など以外では基本的にお風呂と寝る時にしか眼鏡を外してくれないから、ばっちり決めていない眼鏡オフの薫さんというのはけっこう貴重なのだった。ぼやけた視界のまま薫さんの方に顔がわかるところまでそっと体を寄せると、見慣れた青い瞳とばっちり目が合った。そしてこれまた見慣れた黒いフレームも視界に入る。
「……?え?」
「おはよう。よく見えていないのなら、まず眼鏡をかけたらどうだ」
「???は〜い……?」
 寝起きなこともありうまく状況がつかめないままとりあえず薫さんの言う通りベッドサイドの小さいテーブルに置いてある私の眼鏡を手にとって、かける。
「……………………え!?薫さん、もう起きてたんですか!?」
「何を今更……」
 薫さんは小さくため息をついた。その顔には眼鏡がかかっている。一体いつから……というかこの場合、寝起きの顔を見られていたのは薫さんではなく私の方なのではないか。そのことに思い当たってなんだか脱力してしまった。
「ええ〜〜……」
 私、薫さんの寝起きの顔が見たかったのに……なんで私のこと見るんですか……と漏らすと、薫さんは先ほどよりも大きめのため息をついた。
 でも見ていたこと自体は否定していなかったな、と朝ごはんを食べながら思い返してうふふとにやけてしまって、薫さんに気味の悪い顔をやめろと怒られたが、これもまたしあわせな日常の1ページなのである。