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 ぱちり、と目を開ける。なんだか今日はうまく眠れない。……いや、正確に言えば眠れはするのだが、夢見がどうにも悪く、途中で目覚めてしまうのだった。
 わたしはそっとーーここはわたしの個室なので普通に起きたところで誰に迷惑がかかるわけではないけれど、なんとなくそうしてしまったーーベッドを抜け出し、部屋を出る。そのままカルデアの白くてどことなく冷たい廊下をぺたぺたと、目的もなく歩いていると、どん、と誰かにぶつかった。

「……、うわ、」

 真夜中で、廊下には足元を照らすわずかな光があるだけだから……それに加えてわたし自身が他の人と会うことを全く想定していなかったから、反応が遅れてしまった。「ごめんなさい」とぶつかった相手を見上げると、紅い眼がこちらを見ていた。

「………………雑種……貴様……」
「け、賢王様……あの、本当にごめんなさい。私の不注意でした」
「当然であろうが……そも、なぜこのような時分に出歩いている。とうに消灯時間は過ぎたぞ」
「あの……眠れなくて」

 紅い目は暗闇でも爛々と輝いていて、それに圧されて重ねてすみません、と謝りたくなる。……まあ、とうに消灯時間は過ぎたぞ、というところは、賢王様にも当てはまることだとは思うけれど、それを言ったらまた話が長くなるので言わないことにした。

「ふん……」

 ギルガメッシュは少しの間思案するそぶりを見せ、こちらに向き直った。

「いいだろう。手を出せ、雑種」
「え?ありがとうございます……?」

 何に対してのいいだろう、かは分からないが、とりあえず言われるがまま手を出す。すると王の財宝ーー空間に浮き上がった黄金の波紋から賢王様は何かを取り出し、わたしの手のひらに転がした。

「これ……飴ですか?」
「そうだ。我の宝物庫にある以上味は保証するぞ」

 ともかく、それでも食べて疾く眠るのだな。明日も早かろうーーと、賢王様は踵を返して、わたしたちのぶつかった曲がり角を戻っていく。

「あ……ありがとうございます!」

 後ろ姿を追ってそれだけは言った。包装紙をはがして口に入れた飴はじんわりと甘みを広げていって、その後は悪夢も見ずに眠ることができた。