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 刀剣男士は審神者のことを好ましく思うものだ。なぜならかれらは刀だから。モノだから。持ち主である人間なくして本分を全うできないからーー本能として、主を慕う。いくら付喪神としての意思を持っていても、顕現され肉体を得ても、それは変わらない。
 だから、私は、かれらのことが時々怖くなる。無条件に寄せられる好意というものが、私にとってどれだけ分不相応なものなのか。いっそのこと、かれらの私に寄せる信頼を勘違いして……自分は特別なのだと、驕ることができればよかった、とも思う。

「主……」

 私の初期刀が、燃え盛る炎を背に言う。主だけは、自分が助けてみせるから、どうか振り返らずに走ってくれと。長く一緒にいたから分かる。……きっと彼はここで死ぬつもりだろうこと。そして、その決意は私に揺るがすことはできないだろうことも。


 行き慣れた廊下は火と血と敵味方どちらか分からぬ折れた刀で地獄のような惨状だった。火の明るさで輝く鉄の色を横目にただ走った。
 ああ、いやだなあ。と、息を切らしながら考える。色々いやなことはあるけれど、やはり一番は、私の一番の罪は、……ただのモノでしかないかれの終わりのことを、死と形容してしまったことだろうか。