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※不二くんが人じゃない、ぬるめのカニバ・流血・事故・怪我の描写

 今日の夕飯はボクに作らせて欲しいな、と久々に言われた。不二は私の家の居候みたいなものだけど、普段私が仕事で家を空けている間に何をしているのかはさっぱり分からない。私が促さないと食物も睡眠も摂ろうとしないし、そもそも私の運転する車に轢かれてぐちゃぐちゃになっても次の朝にはすっかり元の体に戻っていたのだから、出会いからして人間でないことだけは確かなのだが。血みどろの道路に座り込み、ショックで放心していた私につけ込んで、あれよあれよと言う間に居候のポジションに陣取った怪物は、私のことをどうやら好きらしい。
 おいしい? と、首を傾げて私に問う不二が、さっきまで風呂場で何をしていたのか、私は知っている。このスープを掬う手を止めたら、冷蔵庫のモーター音とか、わずかな換気音とかと一緒に、不二の腹のうちが治っていくみちみちという肉の音が聞こえるだろうということも、知っている。
 テーブルの向かい、頬杖をついて、上機嫌に私の食事を見守る不二を見る。それから、スープに入っていた肉を咀嚼して飲み込んで、「おいしいよ」と言った。
 もちろん嘘ではなかった。心からの言葉だった。そんな自分自身に、手遅れだな、と少しだけ思った。