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 君、お酒強かったんだね。つまらないの。
 そう言う不二先輩はそれなりに酔っているようだった。いつもの先輩なら、最後の「つまらないの」は口にしないから。まあ、そういう時は表情で何を言いたいかをいやでも察させてくるわけなので、むしろこっちの方が面倒くさくなくて良いかもしれない。そんなことを考えながら、私は手にしたグラスを少しだけ傾けて、ごくりとアルコールを喉に流し込む。「ご期待に添えなくてすみません」と言ってやったら、先輩は分かりやすく煽られてくれて、「へえ。そういうこと言っちゃうんだ」と低い声で笑った。やっぱり普段より饒舌というか、文字通りの意味で一言多い。珍しいものを見て面白くなってきたので、「かわいくなかった?」と笑い返してみた。
「…………かわいいよ、きみは、いつだって」
 目を伏せて、そう返される。「だから大事にしてあげたいのに……君が」「私が?」
「君が、面白いから」「へえ」「だから、……どうしようもなくて」「うん」
「こんなにどうしようもないのに、君のそばが一番落ち着くから、いやだ……」
 なんでちょっと泣きそうになってるの。ほら、周助くんの大好きな私だよ、とか、冗談めかして手を広げてみたら、今のでうっかり感情のたがをふわふわにしてしまったらしい先輩にしがみつかれて思わずにやけてしまった。あーあ、明日後悔するよ!