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そばにいてください、と言った声は随分と情けなく震えていて、自分のどこか冷静な部分が自嘲するのが分かった。
このままではあずささんを困らせてしまう。早く撤回して、ごめんなさい、なんでもないですと笑って、家に帰らなくては。明日はラジオの収録と雑誌のインタビューがあるんだから、こんなことに時間を費やす訳にはいかない。そんなことよく分かってるのに、鼻がつんとして目は熱い。瞬きした拍子にぽたりとなにかが床に落ちて、そこで自分が泣いていることに気がついた。

「ハルちゃん」

あずささんが優しく私の背中に触れる。労わるような声音がどうしようもなく辛い。やめてください、と叫びたかったくらいなのに、ばかな私はしゃくり上げるばかりで上手く声が出なかった。

「辛いことがあったのね。私、そばにいるから……大丈夫よ、ハルちゃん」

あずささんの柔らかい手が背中をさする。それでますます泣きたくなって、本当はあずささんに縋りたいのに、他でもない私がそれを許さない。
優しくしないで。私のこの想いが過去の思い出になるまで、私のことなんて見ないでください。

20/2/27