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 事務所の窓から差し込む太陽光が疲労しきった目にしみる。……眠い。あまりにも眠い。その上食事もろくに摂れていなかったから、率直に言って限界だ。 今進めている大きな仕事が佳境に入り、必然馬鹿みたいに多くなる諸々の作業を死にそうになりながらこなしていたところ、完全に典型的な徹夜を決め込んでしまったようである。やらかしてしまった……と自省の念に駆られながら時計を見ると早い人だとそろそろ事務所に来始める時間だった。
 しかしもう少しでこの膨大な量の仕事にもやっと一区切りがつくところだから、もう少しだけ頑張ろう……。いや、せめてその前に徹夜の証拠隠滅を試みるべきだろうか?などと私が意地汚いことを考えていると、事務所のドアが開いた。見ると入ってきたのは桜庭さんだ。彼はいつも早くから事務所に居る常連だから納得である。桜庭さんはデスクに座る私に気がつくとこちらに近づいた。
「おはよう。……どうしたんだ、プロデューサー」
「あ、桜庭さん……おはようございます!いや、これは……大丈夫ですよ、大したことないですから」
 怪訝な顔をする桜庭さんに私は曖昧な笑みを浮かべる。そのままなんとか誤魔化されてくれないかと思ったが、流石に元医者はそう甘くなかった。
「顔色が悪いぞ。……どうせ君のことだから仕事にかまけて食事を摂るのを忘れたとか、あるいは睡眠を取っていなかったとか、その辺りだろうが」
 ぎく、と肩を震わせた私に、桜庭さんはひとつ盛大なため息をつくとこちらをぎろりと一瞥する。
「今度は何をした、プロデューサー。素直に吐いた方が身のためだぞ」
「ええと、その……ちなみに言わなかったらどうなるのでしょうか……」
 目の前の男の目つきがより一層鋭くなった気がして「さ、参考までにですが!」と付け加える。疲労で回らない頭で考えた言い訳は自分でもあまり意味をなしていないように思えた。
「そうだな……君の主治医として、今後君の食事内容、睡眠時間を徹底的に管理させてもらうのは当然としてだが……君が反抗的な態度を取るのであれば、それでは不十分だろう?」
 引きつった顔で見上げると、桜庭さんはさてどうしてやろうか、と言わんばかりににやりと笑った。
 …………。私の負けだ。どうやら観念して告白する以外に道はないらしい。