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「北斗くん!」
 ばたばたと忙しなく部屋に駆け込んできたわたしに、北斗くんは綺麗なアイスブルーを瞬かせた。
「どうしたんですか、そんなに慌てて……」
「あ、……ええとね、大したことじゃないんだけど、気になっちゃって……あのね、北斗くんって、わたしに敬語を使うでしょ?」
「まあ、そうですね……?」
 北斗くんはわたしが突然押しかけたせいでまだ頭がいつも通りに回っていないらしく、未だにきょとんとしている。わたしもわたしで冷静とは言いがたい感じなので、そのまままくしたてるように喋ってしまった。
「よ、よかったらなんだけど、一回……一回だけでいいから、敬語外して話してみてくれないかな……って!思って……!」
「ああ……なるほど」
 その後には北斗くんがよかったらだけど!わたしは全然気にしないし、ほら、ええと……私たち、その、お付き合いしているわけだから……などという台詞が続いたのだが、さすが北斗くんと言うべきか。すっとわたしの言いたいことを理解したらしく、「いいですよ。……ああ、いいよ、の方がいいのかな?」と微笑んだ。
「あわっ…………」
 思わず謎の声が出てしまった。すでにものすごい破壊力だ。
「ねえ、これって……あなたのことも、ハルさん、じゃない方がいいよね」
 けっこうノリノリで始めてくれたはいいもののやはり少し照れるらしく、微かに頬を赤らめながら聞いてきた。
「え?ええと、うん、そ、そうなの……かな!?」
 珍しく北斗くんが照れていて……しかもこんな、こんなことになっているのだから、私の頬は北斗くんの比にならないくらい真っ赤だろう。目の前で柔らかく、そして少しのいたずらっぽさを混ぜて微笑んだ恋人は、いつもとは違う呼び方で、わたしの名前を囁いた。