今日の天気は快晴で、窓から差し込む光が心地いい。
今日は仕事の付き添いもない日だから、溜まった事務仕事を終わらせてしまおう。
私はデスクに座ってばきばきと肩を回す。割とえげつない音がしたな……。今日はシャワーですませずにちゃんと湯船に浸かるべきだろうか。
「プロデューサーさん、いまものすごい音したけど大丈夫?」
「翔太……え、そんなに聞こえた?」
「うん、ごりごりって」
翔太はデスクの横にある引き出しに用があったようで、何かしらのファイルを取り出すとこちらに向かって怪訝な目を向けてくる。
「いやあ、でもわりといつもこうだから……」
「ええ?それはちょっとなんか……マズくない?人として」
「ひ、人として……」
若干ショックを受けている私をよそに翔太はファイルをソファの方にぽいっと放ると、私の肩をなんとかする方向に意識を向けたらしい。
デスクの横に陣取ってうーんとしばらく唸ると、何か案を思いついたらしくこちらに乗り出してくる。
「そうだプロデューサーさん、今時間ある?」
「まあ、付き添いも打ち合わせもないから一日事務所にいるよ」
「じゃあちょっと待ってて!僕がとっておきのやつ、やってあげるから」
にっと笑ってぱたぱたとデスクを離れていく翔太。どうやらキッチンの方に向かったらしい。水道を使う音と電子レンジの音が少しの間して、2分くらい経った頃、後ろ手になにかを持って戻ってきた。
「プロデューサーさん、背中向けて!」
言われた通り椅子を回して翔太に背中を向ける。するとなにか温かいものが肩にあてがわれた。心地よさに思わず「おお〜〜……」と声が出てしまう。
「蒸しタオルだよ。これ使うと筋肉がほぐれやすいって聞いたから一度試してみたかったんだよね〜」
機嫌よく言いつつタオルを首に移動させていく翔太。私はといえば動くわけにもいかず、かといって話すこともなく手持ち無沙汰である。
「どう?プロデューサーさん、気持ちいい?」
そんな私を気遣って(というか、本人が普通に暇だったからかもしれないが)翔太が肩越しに聞いてくる。
「うん、すごくいいです…ごめん翔太、なんかやってもらってしまって……」
「いいの!というかプロデューサーさんは、僕にここまでさせちゃう自分の肩を心配するべきじゃない?」
翔太はそう言いつつ冷めてきた蒸しタオルを取って、服が濡れないように被せられていたのであろうラップをごみ箱に丸めて捨てる。しっとりしてこないな……と思っていたらラップだったのか。
翔太は気まぐれに見えてこういうところはしっかり気遣いができるんだよな……。としみじみしていたら、結局タオルは「はい!」と押し付けられてしまった。
仕方がないのでとりあえず手を拭いてみる。さっぱりして気持ちいいが……普通に後で洗濯物に回そう。
「肩触るからね!」
翔太のとっておきはまだ続くらしい。慣れた手つきで私の肩を揉んだり、時々叩いたりする。さすが親孝行アイドルなだけはあって、中々の腕前だ。
翔太はといえば私の肩の凝りをぐりぐりしては「うわ……」だの「ええ……?」だの言っていた。しかもわりとマジなトーンでだ。そんなにか。
「うん、まあさっきよりはだいぶマシになったんじゃない?」
しばらくして翔太に言われるがまま先ほどのように肩を回すと、たしかに凝りが改善されたような気がする。
「マシというか、かなり楽になったよ。ありがとう翔太」
「ふふん!まあそれほどでもあるけどね〜!」
「いや〜本当に凄いわ……。仕事頑張る……。」
肩が軽い、というか今までが凝りで重かったのだろうが、首から腕……なんなら頭まで楽になった気さえする。
えっへんと胸を張る翔太が今は神々しくすら見えた。というか今までどれだけ凝ってたんだ……。翔太のドン引き加減にも納得である。
「まあ、プロデューサーさんの肩があんなことになってたのは僕達のために頑張ってるからなわけだから……」
またやってあげてもいいよ。あっ、もちろん、もうあんなにひどいことにならないのが一番だけど!
翔太はそう言っていたずらっぽく笑う。
この子のためにもとりあえず今日は湯船に浸かろう……。私はしっとり湿ったタオルを洗濯カゴに入れながらそう決意した。