※いつも以上に雰囲気小説




「ねえ美希、美希は私が実は人間じゃないって言ったらどう思う?」

ひと仕事終わった、2人きりの事務所。次の仕事までゆっくりしようとコーヒーを飲みながらわたしが言うと、美希はきょとんとした顔をした。

「ミキは別に気にしないけど?……ハニー、今日は何か変なの。……もしかして、お昼のインタビュー?」

ずばりと私の変な問いの原因まで突き止めてみせた美希に、わたしはうなだれる。

「あはっ、ビンゴなの!ハニー、あれからなんかいつもと違う?というか、元気無かった?から……ミキ、ちょっと気になってたの」
「そ、そこまで露骨だったかな……」
「んー……まあ、周りの人にはバレてないと思うけど。ミキだから気づけたってカンジ?」

思わずほっと息をつく。そうなのだ。今日美希にはある雑誌に載るインタビューの仕事があって、プロデューサーであるわたしもそれに同席していた。(といってもこの狭い事務所で行われる会話なので、同席していなくても聞こえていたかもしれないが)
その際、美希たちが歌う吸血鬼の歌に絡めて、ある質問がされたのだ。

『ーーでは、最後にもうひとつだけ。美希ちゃんは、もし永遠の命を手に入れられるとしたら、どうしたいですか?』
『え?うーん、ミキ的には、メンドウだからいらないって思うな』
『なるほど、理由をお伺いしても?』
『なんだろ……多分、ミキはまあ良くても周りがツラいんじゃないかな?って。だからいらないの』

つつがなく終わったインタビューだったが、私個人としてはこの会話が印象に残っていて、気になってふと冒頭の変な質問をした、という訳である。

「美希は……なんていうか、たとえば私がいつまでもここから歳を取らなかったらどう?」
「えっ?うーん、ハニーはツラくないかな、って思うかな?」
「それは……まあ、嬉しいけど……美希はどう?それこそ辛くない?」

美希はきょとんとした顔をしている。しばらく考えるそぶりを見せて、それから「あ、ミキだけがおばあちゃんになっちゃうからってこと?」といかにも心外ですと言わんばかりの表情で言った。

「それって本当にツラいのはハニーじゃないかな?」
「……なんかインタビューの時と言ってること違くない?」
「そうだっけ?……んーとね、ミキが言いたいのは……ミキ以外の人はツラいかもだし、なんならミキもちょっとはさみしくなっちゃうかもだけど、ミキがハニーを嫌いになるなんて、ハニーが実はヒトじゃなくても絶対ありえない!ってこと!」

美希は自信満々ににっこり笑って、となりに座るわたしの頬を人差し指でぷに、とつついた。つられてわたしも破顔する。

「……うん、ありがとう美希、変なこと聞いちゃった」
「別にいいよ?ハニーと話すことならなんでも楽しいし!」

美希は座ったままんー、と伸びをして、それからあっ、でもね、とこちらに笑いかけた。

「もしハニーが本当にそうなら、ミキがおばあちゃんになるまでずーっとそばにいてほしいな!」
「……そうだね」

美希の笑顔がいつも以上にキラキラと眩しく見えて、思わず目を細めた。誤魔化すように「そろそろ行こうか」と立ち上がる。美希は「うん!」と元気よく返事をして、マグカップの中身を飲み干した。





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