※短い

 「オレの言葉はあまり聞き心地がよくないだろう」マイルームで行われるこのお茶会がまだ始まったばかりの頃、カルナは言った。「そうかな?」私が首を傾げると、そんな私を一瞥して、「……いや、マスターに限っては、そうは受け取られないようだ」と微笑したあなたのことを覚えている。
 でももうきっと、カルデアのみんなはあなたの優しさを知っているだろう。カルナは確かに、名も知らぬマスターの言葉を借りるなら、「一言少ない」ところはある。誤解もされやすいし、カルナ自身もそれを訂正しようとしないから、初めは戸惑ったのも事実だった。
 しかしそれがなんだと言うのだろう。吹雪に、闇に、色々なものに阻まれて、私たちの元にはめったに陽の光は届かない。けれど、カルナと話していると、朝目を覚まして、ベッドのそばのカーテンを開けて、陽を浴びながら伸びをする時のようなーー今はもう遠くなってしまった、穏やかな日常のあの瞬間の気持ちが、ふと胸に去来するのだ。私はそれが好きだった。きっと、みんなもそうだ。そして今は、カルナもそのことを知っている。
 私は後ろ手に座っている椅子の背もたれを撫でた。素朴な木の感触が、そっと私の掌を撫でかえす。お茶請けのシュークリームの食べ方に難儀して、肝心のお茶をまだろくに飲めていない様子のカルナを見る。私の瞳は勝手に細められていた。眩しいな、となんとなく思って、泣きそうになった。
 カルナ。この照らされ方が、私はいっとう好きだ。
 だから、またこの椅子に座って話をしよう。私のために、このお茶会の席に座ってくれるあなたのことが、私は好きだから。暖かいお茶で乾杯をしよう。いつか来る別れのその日が、私のあの愛おしい日常との再会を意味することを願って。あなたともう話すことが叶わなくなった時、カーテン越しに漏れる朝の陽の光に、あなたのその優しい声の響きを想うことが許されることを願って。
 あなたが腰掛けてくれるかぎり、私は何回だってあなたのためにこの椅子を用意する。





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