※炎色反応の2人っぽいけど読んでなくても大丈夫
※男主 付き合っている 名前変換は苗字だけ


 でもまあ、オレはセンパイのこと、すごく尊敬してますから。

 真剣な顔でそう言ったら、センパイはぐっと目を見張った後、オレのことを凝視したまま黙り込んでしまった。顔が赤い。……こっちとしては、真面目な顔して恥ずかしいことを言うっていう冗談だったんだけど。話の流れ的に、そんなに真に受けられるとは思わなかった。
 いや、尊敬してるのは本当だ。ただなんというか、面と向かって言うのは恥ずかしかったから、言うにしても冗談混じりにしたかったのだ。もしかしてこの人はそれも全部分かった上で照れているのだろうか?だとしたら高度すぎると思うが、それがありえるのが不二周助という人間なのだった。
 オレはコンクリートの壁を背景にしたセンパイの顔が、真昼の日差しによって綺麗に切り出されているのを少しの間眺めた。練習量に反してやけに白いままの肌は、陽を受けるとまぶしいくらいで、長めの前髪が頬の高いところに影を落としている。ここは校舎裏だけど、日陰にはならない。今はそれが少しだけありがたく思えた。

「……センパイ、照れてる」
「照れてないよ」

 ジャブ代わりの指摘に、センパイはやっとオレから目を逸らす。思いのほか返答が早かった。でも、センパイらしくない。照れてない、わけがない。そんなこと見ればバレバレなのに、そこまで気が回らずに反射で答えてしまったのだろう。

「嘘。顔真っ赤ですよ」

 オレがわざとじろじろとセンパイの顔を見ながらそう言うと、センパイは若干眉を寄せた。おそらく、(しまった、否定せずにうまくはぐらかすべきだった)とか考えているんだろうなと思ったら、思わず「フッ」と笑いが漏れてしまった。

「鼻で笑ったね」

 フフン。今度は半分くらいわざと笑ってやる。

「いいよ。君がそうくるなら、ボクにも考えがある」

 目の前に立つコイビトは、眉を寄せたまま不敵に口の端を上げた。それから、オレと目を合わせたまま、ゆっくりと顔を寄せる。こつん、と額同士がぶつかって、手を握られた。オレが思わずぴくりと肩を小さく跳ねさせると、センパイはくすくすと笑って、少しだけ身体を引いて距離を取った。……お互いの顔にピントが合うギリギリの近さだということに気づいて、頬の表面がじわりと熱くなる。

「……」

 何も言えなくなってしまった。さすがに。
 オレが意地で目を逸らさないでいると、センパイはそれを読んでいたかのように余裕たっぷりに、そして満足げに笑う。……でも、顔はまだ赤いままだ。かわいいな、と思ったが、今そんなことを言ったらセンパイは怒るだろうか。

「そんなにボクの顔が見たいなら、いくらでも見ていいよ。その間、ボクも満谷のかわいい顔を見てるから」

 この人……立ち直りが早すぎる。オレは「……じゃあ、……そうさせてもらいます」と負け惜しみのように呟いて、しばらくしたら不意打ちでキスでもしてやろうかと、効くかどうか微妙な算段を立ててみるのであった。





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