誕生日プレゼントに跡部からペンダントをもらった。上品でつける場所を選ばない、小さな一粒のダイヤが輝くペンダントだ。

 跡部からアクセサリーをもらうのは実は初めてだった。もしかしたらものすごいゴージャスなデザインのやつかもしれないと思って内心ヒヤヒヤしながら箱を開けたけれど、全くの杞憂だった。いや、多分シンプルなデザインに反してものすごい値段ではあるのだと思う。でも、結局庶民である私に跡部の贈り物と同等の物品を返すなんてことは不可能なわけなので、はなから私の思考は態度でお返しをする方に割り切られている。だから値段も聞かなかった。その代わりに、「すごく嬉しい」「ありがとう」「毎日つける」などと、はにかみながら途切れ途切れに言った。……いや、毎日は正直ちょっとだけ盛った。私はアクセサリーをつける習慣がなかったから。でも、跡部は満足げに笑っていたので、言ってよかったと思った。

 私は跡部みたいに表情とか言葉が雄弁なタイプじゃないけど、私の発する些細なサインを、跡部は絶対に拾い上げてくれる。そして跡部は私のそうした小さな意思表示を見つけるたびに、あのいつもの自慢げな笑みを浮かべて、子供みたいに嬉しそうな瞳をする。私は跡部のそういう表情が大好きだった。

 だから今回も、あの時の跡部の嬉しそうな顔が忘れられなかったから、私は結局有言実行とばかりにペンダントをつけまくった。だって跡部、なんだか跡部の方がプレゼントをもらった側みたいな顔をするから。普段つけないペンダントをわざわざ贈ったのも、何も誕生日プレゼントのネタが尽きたからなんて理由ではないでしょう。多分ちょっとした賭けというか、甘えというか、そういう類のものだって、さすがに私にもわかるよ。

 でも、それがなくても、きっと私はこのペンダントを気に入ったと思う。跡部の意図した通り、私のデコルテで光る小さなダイヤは、いつだって跡部のことを思い起こさせてくれる。これを贈ってくれたのが跡部だからかもしれない。跡部はすごい自信家で、その分努力家で、時々強引で、でもすごく優しい。方向音痴の私の手を引いてくれるのはいつだって跡部なのだ。だから、なんというか、このペンダントに何度も励まされた。ちょっとだけ強くなれた気がした。お守りみたいな感じだ。

 ……。……いや、白状すると、跡部の独占欲を感じられるのも、わりと気分がよかった。どう言えばいいのか分からないけれど、私は跡部のことが大好きなんだなと自分で思う。自分がこういうのが結構好きなタイプだということに、私自身も、跡部にもらったペンダントをつけるようになって初めて気がついたのだ。


 そんなこんなで私が跡部にペンダントをもらってから二ヶ月ほど経ったある日、跡部は私の家に上がり込んでいた。念のために言っておくと、私の部屋はごく一般的な一人暮らし用のマンションで、もちろん跡部の家とは到底及びもつかない。しかしどうやら跡部はこの部屋がずいぶん気に入っているらしく、今日もいわゆるお家デートのために私の家を訪れたのだ。まあ確かに、跡部の家ってお家デート♡とか言える感じの規模じゃないし、私としてはありがたいけれど。

 なんでもない量産品のソファも、跡部が優雅に足を組んで座るとなんだかそれらしく見える。何度見ても新鮮な現象に感心しながら、私もその隣に座ってくっついてみた。跡部がいつもつけている香水がふわりと香る。跡部は腕を私の肩に回して抱き寄せるようにしてから、ふいに長い指で私の首元をなぞった。

 「気に入ったのか?」と、笑うでも煽るでもなく、純粋に問われる。
 跡部は結構考えていることが顔に出る。だから、多分本当に気になったのだと分かった。私がこのペンダントをどう思っているか。色々と未知数だったからだろう。


 私は何を言おうか迷ったあげく、跡部の指ごとペンダントを握り込んで、「うん、ものすごく」と言って笑った。跡部は柄にもなく本気で照れていた。





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