今日は晴先輩とデートをした。といっても大したものではない。学校帰りに先輩と話していた時、俺も晴先輩も同じ店に用があることがわかったから、じゃあ一緒に行こうか、ということになって、普通に買い物を済ませて帰ってきた。それだけ。

 多分、桃先輩とか菊丸先輩あたりに知られたら、「えちぜーん……そりゃねーな、そりゃねーよ」とか「おチビって案外奥手なんだね〜?そんなんじゃ彼女ちゃんがかわいそうだにゃ〜」とか、とにかく絶対にめんどくさい絡まれ方をされるだろうなと思う。……自分で想像して自分でムカついた。でも晴先輩が隣を歩いているから早足になるわけにもいかなくて、空を睨んでみる。まだ日が沈む様子はない。日差しは柔らかく、青い空が広がっていた。

「……ねえ、先輩」

「なあに?リョーマくん」

「あそこの公園、寄って帰らない?」

 別に、テニス部の先輩たちにあれこれ言われるのが嫌だから言い出した訳じゃない。帰路についたとたんに、もう少しだけ晴先輩と一緒にいたくなっただけだ。もう一度口を開いて、そのことを言ってしまうべきか迷っているうちに、晴先輩に先を越されてしまった。

「もうちょっと話したかったから、嬉しいな」

 そう言った先輩は、そっと目を細める。晴先輩が得意な、人の心を掬い上げるような笑い方だった。


 この公園にはランニングのついでに来たことがある。確か、ファンタの売っている自販機があるはずだ。先輩と一緒に公園の入り口の金属の柵みたいなやつを越えて、砂利をスニーカーで踏みながら進む。ベンチに落ち着く前に辺りを見ると、記憶通りの場所に自販機があった。俺に合わせて同じ方に視線を動かしていた先輩もそれに気づいたようで、足を止めると、「あ。リョーマくん、何か飲むでしょ?」とこちらを振り返った。

 俺は唇を尖らせて「ん」とだけ言った。先輩はそんな俺を見て、おかしそうにくすくす笑った。

 結局、当然のようにおごってもらってしまった。別に嫌とかじゃないけど、なんだか納得いかない。晴先輩といると、やたらと甘えたくなって困る。

 とはいえベンチに二人並んで座ることに成功し、その上いつも通りファンタのグレープを手にした俺は、それなりに機嫌良くプルタブに指をかけた。ぷしゅ。聞き慣れた、炭酸の抜ける音。晴先輩はカフェオレだから、俺のよりは控えめな音だ。

 そのままカフェオレの缶に口をつけた晴先輩は、一瞬固まった後、ゆっくりと缶を下ろして小さく眉を寄せた。「苦すぎた」ぼそりと言って口の中で舌を動かしている。

「アンタ、よくそういうの飲んでないっけ」

「うん、カフェオレは好きだよ。でも、甘くないと飲めないから……一番苦くなさそうなやつを選んだんだけど、ダメだった」

 確かにここの自販機は学校近くにあるやつとはラインナップが違う。買うときに若干時間がかかっていたのは、俺のように買うものが決まっているわけではないからだと思っていたけど、どうやら一番甘いカフェオレをパッケージから推測していたかららしい。

 晴先輩はもう一回缶の中身を一口飲んだ。それから、眉をもう一段階強く寄せる。「大人の味だ……」とかなんとかぼやいて、また一口。買ったからには残さず飲みきりたいらしい。ちょっとだけムキになっている。いつもより子供っぽい横顔を見ながら、俺も自分の缶をすすった。

「先輩なのに子供っすね」

「実はそうなの」

 先輩は恥ずかしそうに笑う。いつもと同じ笑い方だったはずだけど、なんだかすごくかわいく見えた。





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