※寝起きでぼーっとしてたらうっかり彼女の前で一人称オレが出ちゃった不二(参考:無印10.5巻)

 周助さんと暮らし始めたら、いつのまにか私にもモーニングコーヒーの習慣が付いていた。朝、早く布団から脱出できた方が二人分のコーヒーを淹れるのが休日の朝のお決まりになって、初めは周助さんに淹れてもらってばかりだったのが、だんだん五分五分くらいの勝率になってきて、付き合って間もない頃は全然見せてくれなかった寝顔も、そろそろわりと見慣れてきて……。そんな感じのある日、事件は起きた。
 その日コーヒーを淹れていたのは周助さんで、私は寝起きでまだふわふわした頭のまま、周助さんの隣に意味もなく立っていた。……起き抜けだし、とりあえず水を飲んでおこうか。そう思って戸棚から自分の分のマグカップを取ろうとすると、やかんを片手に持った周助さんが後ろから声をかけてくる。
「晴ちゃん。マグカップ、オレの分も取って」
「はーい」
 返事をして、ふたつ目のマグカップを取り出して。……あれ。なんか違和感がある。……マグカップたちをポットの隣に置く。少しの間考えて、思い至ったことをそのまま口に出してしまった。
「……オレ?」
 周助さんは、あからさまに「あっ」というような顔をしている。
「珍しいですね、周助さんがオレって言うの」
「そうだろうね……」
 周助さんは、お湯を注ぎ終わったのにまだやかんを持ったままだ。でも、もし両手が空いていたら、額に手をやってため息くらいついていそうな感じがした。
「え、もしかして落ち込んでますか」珍しい姿にさすがに一気に目が覚める。
「うん、まあ」「なんで?」
「家族の前でしか使ったことなかったから、恥ずかしくて……」
 え、そうだったんだ。周助さんは私の顔をちらりと見て、「え、そうだったんだ」と思われていることが分かったらしく、今度こそ本当にやかんを置いてため息をついた。
「ごめん、変なこと言って。気にしないでいいからね」
「イヤです。家族の前では使うのに、なんで今まで私の前では使ってくれなかったんですか。拗ねますよ」
「……あのね、晴ちゃん。キミも知っての通り、ボクはかっこ付けたがりだから」「あ!ボクって言った!」
 周助さんは、はしゃぎ始めた私を「……そんなにいつも使ってるわけじゃないからね?」と半分呆れの苦笑いでたしなめてから、「なんというか、キミが好きになってくれたボクって、オレとか言わないんじゃないかなって」と続ける。……めちゃくちゃ心外だ。
「むしろ私の知らない周助さんがまだ隠されてたのが悔しいくらいなんですけど」


「ね、お願い周助さん。次からは隠さないでオレって言ってね」
「……キミのお願いなら断れないな」
「ふふ!ありがとうございます!待ってます」「待たなくていいよ」「一人が恥ずかしかったら私も一人称変えましょうか?何がいい?」「変えなくていいよ」

 ほら、この話はもう終わり。コーヒーが冷めちゃうよ。周助さんにうながされて、私は「はあい」と返事をしてテーブルに向かった。





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