クリスマスに外に出るなんて自殺行為だ。と、私は本気でそう思う。まず、人が多い。それに、イルミネーションとかカップルとか、街がむやみやたらと浮き足だっているのを肌で感じると、なぜか不安になってくるからいやだ。それに、本当に人が多い。だから絶対に外には行きたくない。怠惰すぎるが本心なのだからしょうがないのである。
 そのようなことを先輩に力説しようか迷っているうちに、スマートフォンに通知が来た。表示されたメッセージの、「クリスマス、」まで読んで、しまった遅かったか、と身構えると、意外にも続くのは「君の家に行ってもいいかな?」だった。

     ◇ ◇ ◇

「びっくりしました、先輩って絶対夜景の綺麗な雰囲気のいいレストランでクリスマスディナー……とか言い出しそうだと思ってたので」
 「わあ、すごい偏見だ」先輩は私の失礼な発言を全く意に介していないようで、いつもの穏やかな微笑みを崩さない。「僕にだって君の好みに合わせるくらいの甲斐性はあるんだよ」普段から私のワガママに付き合ってばかりのくせに、そんなことをうそぶく余裕まである。
 私はといえば、先輩が自分の家にいることにどきまぎしてしまってしょうがなかった。先輩のことも自分の家のこともそれぞれ見慣れているはずなのに、二つが合わさると途端にとんでもないことが起こっているような気がするのはなぜだろう。オードブルを食べてワインを飲んでケーキを食べて、そこまで行ってもまだ落ち着かない。クリスマスで先輩と二人きり、浮かれている自覚はあるけれど。
「……なんか、緊張するんですけど」
 先輩に聞いてどうする? という心の中からのツッコミをアルコールの力でぼやかしつつ、ソファーの隣に座る先輩にそうこぼしてみると、先輩は「ああ、ごめん、僕のせいだ」と苦笑する。何で謝るんだろう。そう思っていたのが表情で分かったらしい先輩は、指を組みながらつぶやくように言った。
「実はね、君が夜景の綺麗なレストランに行きたがるような子だったとしても、僕はクリスマスの日の君を外に出すつもりなんてなかったんだ。どうしてか分かるかい?」
 君から僕へのクリスマスプレゼントは、この問題に正解してくれる、がいいな。先輩がそう言うので、私は働かない頭をフル回転させる羽目になった。結果的に捻り出した答えの馬鹿さ加減には自分でも呆れるし、先輩には大爆笑されたけれど、先輩が「うん、大正解」と子どもみたいに嬉しそうにするところが見られたので、まあよしとする。





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