――うわ、珍しい。
そう心の中で呟いてから、いや、最近はそう驚くほど珍しくもなくなってきたんだったか、と思い直した。
休日、昼下がりのリビングには穏やかな陽光が立ち込めている。
その中央ほど、窓ぎわに置かれたソファには、先輩が横向きに寝そべっていた。少しあどけない寝顔、やわらかいシャツ、脱力した身体の輪郭に、光がひらひらと当たる。先輩は今の自分がどんなに美しいか気づかないまま、かすかな寝息を立てている。呼吸のたびに胸の辺りがゆっくりと上下するのが分かる。
その光景を眺めながら、――昼寝だ。と、再び声に出さずに言った。
最近この人は私に寝顔を晒すのを避けなくなってきた、とふいに気づいたから、なんだかこの空間が愛おしくなってしまった。ずっとこうしていられたらと私に思わせる何か、幸せの気配みたいなものが、ここにあったからだ。
ソファの近く、ローテーブルの上に置きっぱなしになっていたデジカメを手に取った。電源はスムーズに入って、微かな起動音と共になにやらレンズのあたりがぐるりと動く。液晶が光り、画面の中に目の前の景色が小さく映し出された。とりあえず先輩をそこに収めてみると、画面よりも明らかに実際の方が綺麗だったので、私は唇を尖らせた。先輩の撮る写真と逆の現象だったからだ。たぶん、もっと光の印象を強くして、かつ全体的にふんわりと明るくすれば近づくのではないか……と推測してみたものの、普段撮られるばかりの身ではどう操作すればそうなるのか皆目見当もつかない。というか、デジカメっていじれそうなところが多すぎる。このおびただしい量の数字や文字は何が何の何なんだ……。あと思ったより大きいし、重い……。
「上にある……右のちいさいつまみを回してみるといいよ」
私は弾かれたように顔を上げた。先輩が、ソファに横たわったまま、目だけで笑ってこちらを見ている。一体どこから起きていたのか……。それとも私の考え事が声に出ていたのだろうか。私は丸くしてしまった目をじとっと軽く睨む形に変えた。それから、言われた通りにつまみを触ってみる。画面がすっと暗くなる。逆か。反対側に動かすと、今度はちゃんと明るくなった。
私が大人しくカメラに向き合って、むすっとした顔のまま「もっとふわっとさせたいです」などと言うので、先輩のアドバイスは機嫌良く続いた。
被写体になっていることを気遣ってなのか、単に眠たいのか、先輩は姿勢を変えない。最初私が目を奪われた時の美しい姿のまま、いつもより明瞭さを欠いたとろんとした声で喋る。その声の言う通りにすると本当に写りが良くなっていくので、私はさっきまで抗議の意を表明していたのも忘れて真剣になってしまった。
いくつかの設定を変えたのちふたたび視線を上げると、ふわふわとした微笑みを浮かべた先輩と目が合った。先輩の身体はやはり陽光を受け止めて穏やかに輝いているし、先輩の微笑みも光に似合っている。私はそれに向かってシャッターを切った。
「……きれいに撮ってくれた?」
先輩はくすくすと笑い声を漏らして、それから表情にその余韻を残したまま瞳を閉じる。まさか寝直されるとは思っていなかった私はうろたえて、それから腹いせに、もう二、三枚追加で先輩のことを撮ってやることにした。