かなしい宇宙の慰め方
溜まった報告書を提出し終えた#name2#が縢の部屋へ到着した時には既に、部屋の主はだいぶ出来上がっていた。ソファにだらしなく凭れ、入ってきた#name2#に「いらっしゃ〜い」と手を振る彼の顔は真っ赤で、結構な量を飲んだことが窺える。
対照的に、常守監視官の顔はほんのり色づいてるだけで「お疲れ様です」と労う口調もはっきりしており、ケロっとしているように見える。ーーなるほど、いける口だったのか。意外な事実に目を丸くしながら、彼女の隣に腰がけた。
「これ、差し入れ。」
「わ、ありがとうございます!」
お気に入りのスパークリングワインを渡せば、珍しいのか側面や底を観察し始める。その様子がおかしくて肩を震わせ、「開けてあげる」とコルクを抜きワインに注いであげれば、彼女はご褒美を待つ子どものように目を爛々とさせていた。
「何を話していたの」
「朱ちゃんの恋バナ〜」
ニヤニヤと笑いながら答えた縢から朱へ視線を移すと、彼女もこちらをチラリと見て「違いますよ」とグラスの中身を一気に煽った。
「狡噛さんのことで少し、聞いていたんです」
一瞬、彼の名前に微かに反応したのを気取られないよう、#name2#は「ふぅん」と何気なしに声を漏らした。
「わ、このお酒おいしい」
「でしょ。私のオススメ」
赤いスパークリングワインはどうやら彼女のお気に召したようだ。同じように空きグラスにワインを注いでもらいながら、ふと目の前の監視官をじっと見つめた。まだ幼さの残る造形に、時たま不安げに揺れる瞳。だがそこにはたしかに強い意志が宿っていて、アンバランスで危なっかしくて、それでいて眩しい。
初めて顔合わせをした時はそのあまりに純真な眼差しに、この子には敵わないと瞬時に悟ったものだ。
「狡噛に恋してんの?」
探りと少しの好奇心。
半々の気持ちで#name2#が先ほどの話のつづきを投げかければ、朱は一刻前に縢に向けたのと同じようにその疑問を笑い飛ばした。
「興味深いとは思いますが、ないですね」
「…そう」
短く返した言葉に込められた真意は、つまらないという落胆か、好意がないことへの安堵か。自分でもよく分からなかった。ただ胸中でぐるぐると渦巻く感情を誤魔化すように、#name2#はワインを飲み干した。きたない、目を背けたい、濁った感情。自分は潜在犯だから仕方がないと、誰から責められているわけでもないのに言い訳を頭の中に並べていた。
朱はというと、どこか憂い気な#name2#の様子に開きかけた口を噤んだ。
縢より以前から執行官としてこの場で働いていた#name2#に聞けば、狡噛がなぜ監視官から執行官へなったのか、より詳しく聞けるのかもしれない。しかし、今は聞くタイミングではないと、第六感が告げている。ここで働き始めてから日は浅いものの、二人の間に何かあると朱は直感的に感じとっていた。
プライベートにずけずけと足を踏み入れるような行為はもともと好きではない。かといって、執行官との関係を良好にするための情報収集は進めたい。
「……」
−−狡噛さんのことは今度唐乃杜さんにでも聞けばいいや
目下の悩みは胸の内へしまうことにした。
まるで血の繋がってない姉妹みたいだ。他愛もない話をする二人を眺めながら、縢はいつの間にか深い眠りに落ちていた。
◇ ◇ ◇
トレーニングを終えた狡噛がシャワーを浴びてソファでうたた寝をしていた頃、静かな室内に来客を知らせるベル音が響いた。
時間を確認すれば一時を回っており、夜更けの来訪に思わず片眉が上がった。業務に関する緊急事態であればデバイスに通信が入る。おそらくは私用だろう。
縢か、それとも…とあたりをつけながらロックを解除しドアを開けてやれば、ドンっという衝撃と共に鳩尾に鈍い痛みが走った。鍛え上げられた筋肉のおかげで然程痛みは感じなかったものの、突然の出来事に疑問符ばかりが浮かぶ。下を見てみればやはり、来訪者は思い浮かべていた人物の一人であった。
「こーがみの胸かたい。痛い」
ぶつくさと文句を言う#name2#に、こっちが文句を言いたいくらいだと狡噛は深くため息を吐いた。
「どうしたんだ」
「んー………」
問いには答えないくせに離れる気はないらしい。頭をぐりぐりと狡噛の胸に押しつけては唸るの繰り返しである。
ーーそういえば、今日は縢の部屋で飲むとか言ってたけな。
この様子からしておそらく酔っているのだろう。すん、と顔を近づけ吸い込めば微かにアルコールの匂いがした。
無理に引き剥がすことが出来ないわけではないが、あまり自分からこういうことをしない彼女が甘えてくる姿は珍しく、離れてしまうのは少々惜しい気がしてきてどうしたものかと悩む。手近に頭をポスポスと撫でてやれば、くすくすと下から柔らかな笑い声が聞こえてきた。胸板へ押し付けていた頭部はスリスリと擦り寄せるように変わっている。まるで猫みたいだな、と仕事中の彼女と比較して口元がゆるく綻んだ。随分と楽しい酒を飲んできたらしい。
「部屋、入るのか」
こくり、と頷かれたのを確認してから、このままのこの態勢で寝られても困るのでひとまず抱きあげソファーへと移動させた。
冷えたミネラルウォーターを持って来て渡してやれば、「ありがとう…」とボソリ呟いてからグラスに口づけた。ワイシャツのボタンがいつもより一つ多く外されているためか、こくり、と嚥下する白く滑らかな喉元が際立つ。狡噛は無意識のうちに喉の動きを目で追っていた。
「すっきりしたか」
「……少し」
「何か用があって来たのか」
その問いに、特に用があったわけでもなく訪れた#name2#はえぇと…、と言葉を濁した。
日中は意味もなく尋ねることはあるが、こんな夜中に訪れるのは初めてである。自分でも、何故ここへ来るまで至ったのか、はっきりは覚えていない。後片付けを簡単にして、縢を起こして、常守監視官と別れてから、気付いたら狡噛の部屋へと足が向かっていたのだ。
何か用があったわけでもない。強いて言うならば、会いたかったら。単純かつ本能的な理由だ。
隣に座った狡噛の手に自分の手を重ねて、反応を窺うように素直な気持ちを伝えた。
「会いたくなったから」
それじゃ…ダメ?
首を傾げる#name2#に、狡噛は驚いたように目を瞬いた。自分が想像していたよりもストレートな回答に、思わず口端が上がる。
数時間前まで同じ空間にいたじゃないか。思ってはいても、そんな野暮な返しはしない。無意識か否か定かではないが、誘うような熱い瞳を向けられて黙っていられるほど、狡噛は最早大人しい犬ではなかった。奥深くに潜んでいた欲にいとも簡単に火をつけられた猛獣は、獲物を目の前にして牙を剥く。
「いや、嬉しいよ」
はにかんだ彼女の手を掴み引き寄せ、紅く熟れた唇に噛み付いた。掴んだ手とは逆の手で腰を引き寄せると、#name2#は唇を合わせたまま狡噛の太ももへと跨る。タイトスカートが捲れ上がり、太ももから下が大胆に晒け出される。ブラウン系の薄いストッキングの下に覆われている白い柔肌を想像し、欲を孕んだ熱は昂ぶっていく。
「……んっ、は、ぁっ………」
しばらく唇を擦り合わせていると、互いの吐息に色が増してくる。キスに合わせてさわさわと腰から尻を撫でる狡噛の手はやらしく、#name2#はもどかしそうに腰を小さく揺らした。
やがて滑っていた手はスカートを完全に捲れ上がらせ、ストッキング越しにショーツの線を撫でる。絡ませていた舌の動きは止まり、#name2#は堪えるように吐息を漏らした。
「…っ、はぁ………」
ワイシャツの裾を引っこ抜きボタンを外すと、キャミソールの下へ手を侵入させた。身体がビクリと震えたが、舌を絡ませるのを止めずにいれば応えるように舌が蠢めく。懸命に応えるその表情はたまらなく可愛いもので、狡噛の興奮をさらに誘っていった。
背中側に手を回してしばらく、違和感に気がつく。常なら肩甲骨付近で引っかかるホックが見当たらないのだ。手を彷徨わせ不思議に思っていると、彼女は唇を離して、背中にある手を前側へと導いた。
ーーなるほど、今日はフロントホックタイプのブラを着けていたのか。
納得していると、彼女はクスクスと笑った。なんだか馬鹿にされてる気がして、ブラをずり下げ先端を軽く摘めば、やぁっ、 と声をあげて啼いた。
その声に気を良くし、もう片方の突起に齧りつけば悶えるように狡噛の頭を抱え、はぁ、ぁっ、ん、途切れ途切れに耳元で熱い息を漏らした。
ホックを外すと締め付けから解放された双乳が目の前で揺れ弾けた。しろい乳房は張りがあるのに驚くほど柔らかくてこの世のものとは覚えない。初めて彼女を抱いた時にも、行為が久しぶりだったせいもあってか同じような感想を抱いたのを覚えている。
胸と尻をじっくり愛撫し、時おり唇で乳首を食んで弾くように離すと、狡噛の頭を抱える腕に力がこもった。
太腿に跨る#name2#の腰はくねくねと秘部を押しつけるように前後に動かされ、いよいよ狡噛も平静を装っているのが辛くなってくる。腰の動きが艶かしいことこの上ない。
それでも余裕を見せつけるように臀部から秘部へとストッキング越し焦らすように指を滑らせると、しっとり湿った感触がして口角が上がった。
腰を浮かせてやれば予想通り、狡噛のスウェットには色濃く染みがつくられている。そこまで濡れている自覚がなかったのか、#name2#は己のつくった染みを見ると驚き、そして恥ずかしそうに目を逸らした。そんな恥じらう姿さえ愛しく感じる。胸にちゅっと口づけソファから降ろすと、そのまま横抱きにしてベッドへと運んだ。
降ろした#name2#に覆い被さり、捲れ上がったスカートを脱がせてからストッキングに指をひっかけ破かないように慎重に降ろした。途中ウエスト部分のゴムが太ももに食い込み、それさえも狡噛にはいやらしく映り、昂った熱が下腹部へ集まっていくのを感じていた。
下着は十分すぎるほど濡れており、色が変わった部分を上から指で押してやれば喘ぎながら腰を捩った。溢れ出る加虐心が止まらない。
ショーツを脱がせ、ベッド下へ落とす。晒け出されたそこは透明な液体でてらてらと光っており、女の色香を放ちながら誘うようにひくひくと動いている。ご馳走を目の前にした獣のように、ごくり、と生唾を飲み込んだ。
下から指を沿わせるように動かすとビクリと震える。「っあ、やっぁぁ……」と、赤く熟れたそこへ指をつぷ、と埋めればさらに声をあげて啼いた。アルコールのせいだろうか、彼女の中がいつもより熱く感じる。ゆっくりと抜き差しを繰り返せば、ぬちゅぬちゅと淫猥な音を上げて指を深くまで咥えこむ。そこはすでに蕩けきっていて、指の本数を増やし入り口からすぐ上の弱いところを撫であげれば、身体が小刻みに震えた。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、あらゆる感覚器官に訴えかけられ欲が刺激される。
残るは味覚−−己の舌でも彼女を感じていたい。狡噛は指を埋めながら、その上で触れてくれと言わんばかりに赤く腫れる芽に舌を覆うように這わせた。ぬるりと舐めあげ、ぐりぐりと押し潰すように舌を蠢かせれば#name2#は背中を浮かせて悲鳴のような嬌声を響かせた。
「ぁああっ、や、んぁっあ……!!」
腰から頭にかけてびりびりと痺れる感じがする。ぐにゅぐにゅと芽が熱い粘膜に押しつけられたかと思えば時おり吸い上げるよう刺激され、苦しいほどに気持ちよくて目の前がぱちぱちと白んだ。
「ゃ、っああぁ……はっ…らめ……なめちゃぁっ、んっ………」
すでに呂律の回っていない#name2#の喘ぎ声に、狡噛の熱もドクドクと昂ぶる。
「ナマで、したい」
責任をとるとかとらないだとかの問題ではないのだ。心も身体も求めていて。
狡噛はいまの彼女に直接挿れられたらどれほど気持ちがいいだろうかと想像してぞくりとした。