たりないよ染色体
なんというか、理不尽にも程があるんじゃないか。とあいつに言えばまた説教を喰らうんだろう。しかし朝練に間に合う様に心配をしてくれている事には若干の感謝をしつつ重い体を起こした。
「どうも朝は苦手じゃ」
階段を下りて行くあいつの足音を聞きながら身仕度を始めた。
「やーっと下りて来た」
「雅治間に合うの?」
「私が何の為に起こしたか分かんないじゃん」
一階のダイニングルームに行けば母さんとさっき俺を起こした張本人、名前がいた。
「今日はもういい。行く気がせん」
「あー、部長さんに怒られるよ?」
「別にいい」
「もー。お母さんも何か言ってあげてよ」
母さんに似て本当にこいつは口煩い。どうしてこんなにも違うのだろう。朝が弱い俺に対して、いつも決まった時間に起きれるこいつ。世話焼きで自分の事より他人の事なこいつ。きっと周りから見れば自分勝手に生きてるだろう俺。
「情けない弟を持って悲しいよ」
「姉貴面するんじゃなか」
俺と名前は同じ日に生まれた。双子というやつだ。どうやら俺の方が少し後に生まれたらしいがな。しかしお互い似ていない所で困る事も別にないし、一人間なのだから似過ぎていたら、それもまた気味が悪い。自分では分からないがきっと見た目的な事で言えば多少は似ているのだろう。しかしこの二人が一緒にいるなんて事は滅多にないから誰も俺達が双子なんて、ましてや俺の学校で俺に双子がいるのを知ってる奴なんか数えるくらいしかいないだろう。現にいま何故、朝練がある俺と(もちろん今日は行く気がない)名前が同じ時刻に起きているのか。ただの早起きと言えばそれまでだが名前の場合は違って、
「うわ、私も早くでなきゃ。電車間に合わないや。今日は一本早く乗りたいんだよね」
「雅治、あんたももう名前と一緒に出ちゃいなさい」
「そんなに急がんでも…」
「神奈川と東京の一本は違うの!」
要は通っている学校が違う。名前は県外の学校に行っていて、しかも部活の朝練があるから毎朝早い。そして珍しくも名前と俺の共通していたのは同じテニス部という事だ。まあ、名前の奴は選手ではないらしいが。
「雅治行くよ!」
「先に行ってろ」
「早く、早く!」
玄関で俺をせかす名前。靴も名前は右から俺は左から履くし、鞄は名前は左、俺はみぎに担ぐ。アシンメトリーとしてなら逆に凄いのかもしれない。
「行ってきます」
「行ってくる」
家を出て駅に向かう。軽く欠伸をしている俺の隣には全く眠気のかけらもない名前。何なんだ、本当に。
「本当朝から騒がしいんだから、あの二人…あら?」
駅に着き、まだ人がまばらなホームで待っていれば程なくして電車が入ってきた。結局朝練はサボり。けどこの時間帯ならまだ終わってないだろう。しょうがないから校舎の屋上にでも行くとしよう。
「そういえばね、こんどの土曜にね…」
他愛のない話をしながら、窓の外の流れる景色を見ながらふと気づいた。
「「あ…弁当!」」
「ほんと、そっくりね」
110226