
不法侵入?まあ、私もほぼそんな様なものだけど。一応カードキー預かってるし働いてるし?で、目の前の人間に不信感しかない。
「なんや、いきなり…跡部かと思ったわ」
「…はぁ…私も跡部さんかと思いました」
言うほど驚いた様子もないこの人物は私が用意しておいたあいつの夕飯に手を付けていた。
なんならテレビも付けながら食べていてかなり寛いでいる様子だ。
「…えーっと、どちら様でしょうか?聞いてる感じ跡部さんのお知り合いかと思われますけど」
「あぁ、すまん。その通りや。跡部の大学のサークル仲間やねん」
「あぁ、そうでしたか。私は跡部さんの世話係?と言うか、家政婦とでも言うんですかね。一応この家の家事をしてるんですよ」
「あっ、…自分が」
成る程ね、とうんうん頷きながら箸をそのまま進めてるご友人?と思われる方。一瞬驚いたように反応したが直ぐにテレビの方に気を取られ始める。
「ええと、何故お友達さんだけ1人いるんですか?」
「なんやお友達さんて…せや、名前言うてへんかったな…俺は忍足言うねん」
「忍足さん?だけで、あいつ、じゃなかった跡部さんは何処へ…」
「自分アイツ言いかけとるやん」
つい、ぽろっと出てしまったソレに友人だと言うのにさほど気にしない様子でくすくす笑っている。そんな態度に私も特にこの人に取り繕う必要もないかな、ってなんとなく察して。
「泊まらせてもらうつもりで来たんやけどな?跡部のやつ女の子と遊んで来るみたいやし…カードキー奪って先に家に上がらせてもらった、ってだけの話や」
「成る程…」
「そしたら、美味そうな飯用意されとるやん?あいつ普段から飯食わんし別に勝手に食べてもええやろ、って」
さり気なく言われた美味そうなのワードに思わずドキッと反応しそうになった。なんせ先日は見もせずにいらないと言われ自分で食べる羽目になったから尚更。
そんな事を考えてる間にお皿の上は綺麗に無くなっていた。
「ごちそーさん」
「結局全部食べちゃいましたね」
「こんな可愛ぇ子がこんなに美味い飯作ってくれてるなんて羨ましいわぁ」
「なんか…ありがとうございます」
ニコニコ笑いかけてくる忍足さんに多少の胡散臭さを感じつつも悪い人ではないのを感じた私は素直にお礼を言った。
と、同時に本来の目的を思い出し
忘れ物のメモ帳を探す。
幸いすぐに見つかりここにいる理由もなくなったので早々に帰ろうとしたが、とりあえず忍足さんが食べ終わった夕飯の食器たちの後片付けをしようと取り掛かる。
______
「ホンマにお姉さん家政婦みたいな事しとるんやなぁ」
「まあ、仕事ですから?」
私はキッチンで後片付けを、忍足さんはリビングのソファでテレビを見ながら会をしている。
「にしても、大学生の一人暮らしでお手伝いさん付けるなんて…金持ちの考えることはよー分からんわ」
「それに対しては私も同意見ですよ」
高校の頃から跡部はぶっ飛んでたから、って忍足さんは慣れてるみたいだった。
「別にあの人も望んでるわけじゃ無いと思いますよ。ご両親の要望というか。実際今日みたいな様子見ると殆ど家に帰ってなさそうですよね、実家暮らしの時から」
「その通りやな…」
「一人暮らしするからって、家政婦なんて名ばかりで大方お目付役にでもしたかったんですかねぇ。遊んでばかりのお坊ちゃんを。…あんな奴の世話なんて本当真っ平御免なんですけどね」
そこまで言って、忍足さんは一応はあいつの友人だと言うことを思い出しはっ、として口を慌てて紡ぐ。
「ははっ、別にええよ。友達の俺でもあんな奴の世話やくんはしんどいからなぁ」
そう言って相も変わらずニコニコ笑う忍足さん。一見クールに見えて意外に笑うんだなぁ、なんて余計な事を考えて。
話してる感じ関西の方なのかな?という、独特の訛りとおおらかさに忍足さんの心の広さを伺った。
______
「さて…私はそろそろ帰りますね」
「なんや…もう帰るん?」
「メモ帳取りに来たのと、跡部さんが夕飯食べたか確認しに来たのが当初の目的なんですよ、だからもうする事ないって言うか」
そうなんや、と少し残念そうにする忍足さんに多少の申し訳なさを感じつつも明日も仕事だし残る理由もないので帰る準備をすると、
「忍足、いんのか?」
玄関の方で物音がしたと思ったら気怠そうな足音が近付いてきてリビングの扉が開く音がした。
「…何でお前までいんだよ」
「まあ、色々ですよ…申し訳ありません、すぐ帰りますんで」
私を見るや否や不機嫌そうに並んできてこれだ。
「まあまあ、跡部。お姉さん自分の様子見に来てくれたんやで?」
「ンなもんいらねぇ」
あー、と私と跡部さんを交互に見遣り苦笑いしてしまう忍足さん。
「大丈夫ですよ、忍足さん。私が余計なことしちゃったんで。ただ、仕事のメモ帳を忘れたのもあって取りに来たんです。だから、ホントもう帰りますんで」
お前が来たから更々残る理由もなくなったわ、と仮にも雇い主の彼に心の中で悪態をついてニッコリ笑った。
「それでは失礼します、おやすみなさい」
笑顔な後は一度も目を見ずそのままリビングを後にした。後ろの方で、そんな邪険にする事ないやろ?と忍足さんの声が聞こえた。
本当あんなんでよく友達いるな、といっそ感嘆してしまう。
無駄なストレスを増やしたまま家路に着くことになってしまったのだ。
20181006
勝ち気なエリオット