
「……っ、」
ピピピと軽快になるアラームが遠くの方からだんだん聞こえてきて、そのうちハッキリと音を認識した頃には重い瞼をゆっくりと開いて親指でそのままスマホの画面をスライドさせる。
ズキリと鈍く痛む頭を上げながらベッドから起きればまだ薄暗い空がカーテンの隙間から見えた。
窓を開ければ夏が始まる前の薄っすら湿った空気が身体に纏わり付く。
天気が思わしくないと変に頭が痛くなるが今のそれはまた別の理由もあるような気がした。
軽く胃袋に食物を入れたら荷物を持ちそのまま玄関から出る。記憶上じゃあさっき行ったばかりであろうまたあの家に行かなくてはならないのだ。
眉間のあたりが重いのは気のせいと言い聞かせてそのまま足を動かし始める。
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少しずつ明るくなり始めた周りの景色とまばらだが人が活動し始めた街中にそびえ立つ大きなマンションに足を踏み入れたが、いつもより足取りが重いのはきっと昨日の夜またもあいつに腹立たしい反応をされたせいなのか。
私が喜ぶような対応をしろと言ってるわけでもないしむしろそんな事まではされたくないのだけれど、人としての対応ってもんがある。
ホント朝からあいつのせいで気が滅入っていると思うとそれだけで無駄な気がする。
色々考えてる間にも目的の部屋の前に着いた。カードキーを取り出して中に入る。
「うーわ…」
入ってすぐ気付くそれに嫌悪感が思わず口に出てしまった。
明らかに1人ではない人の気配。高いピンヒールのパンプスに男物のスニーカーやらなんやら。それらが散らばる横に申し訳程度に自分の靴を並べて部屋に入れば嫌でも鼻に付く人の臭い。
そこで急にカタンッと音がするもんだから思わず肩を震わせると、
「ん、…え、あー、お姉さん…こない早くから来るん?」
「あ、忍足さん。…おはようございます」
リビングの隣の一室から気怠げに出てきたのは忍足さんだった。昨日はかけていた眼鏡を外していて髪の毛も無造作に乱れているせいか無駄に色気が振りまかれている。
「や…その、朝ご飯作るように言われてるので」
とか言って昨日の朝は作ってないと文句を言われた挙句結局いらないと言われたが。その為今日は昨日よりも早めにきたのがいけなかったのかなんなのか。
「ん、そーなんや。大変やね。でも暫くは跡部の奴起きて来ぇへんかもな…昨日は夜更かししとったし」
苦笑い気味で出てきた部屋を見る忍足さんになんとなく意味を察した。出てきた扉が半開きになっている奥から僅かに衣擦れ漏れて来るからそういう事だろう。昨日帰ってきた時は1人だったのに。呼び出して連れ込んだんだろうきっと。
「はぁ…なんか大学生って感じですね」
「あー、なんかごめんな…?」
「すみません、忍足さんの事言ってる訳じゃないんですが…」
思わず口に出てしまった事を後悔しつつ、朝の準備どうしようかと迷っていると部屋の奥からアイツが出てきた。
「んだよ…お前かよ」
「…おはようございます」
笑顔で挨拶してやろうと思ったが現れた跡部の格好が格好だけに意図せぬ嫌悪感が顔に現れてしまった。上半身裸なだけで色々お察しだ。
「本当色々間の悪い奴だな」
「申し訳ありません…ですが、跡部さんの行動をこちらも一々把握してる訳ではないので」
面倒臭そうに私に悪態をついてくる跡部とそれを笑顔で嫌味たっぷりに返す私を見て視界の端で忍足さんが狼狽してるのが分かった。
「跡部…まあ、あれや、お姉さんも仕事に来とるわけやし、な?」
「なんだ忍足、お前こいつの肩持つのか?」
「そういう訳とあらへんけど…」
私に気を使ってくれたのか忍足さんが声を出すけどギロリと睨みを効かせる跡部。
「大丈夫ですよ、忍足さん。…跡部さん健全なのはいい事ですけどこう言った場合前もって連絡いただけませんか?連絡先田中さんから預かってますよね?」
「なんでお前に一々俺が女連れ込んでヤる事を報告しなきゃなんねぇんだよ」
「毎朝ここに私が来ること知ってますよね?知った上でコレですか?」
昨日は朝飯がないだのなんだの文句つけられて。そんな事を言われたら次の日はそれなりに気ぃ遣って来るに決まってるでしょ。アホなの?
「あー、一々うるせぇ女だな。免疫ねぇのか?お前みたいなうるせぇ奴需要ねぇだろうしな。男もいねぇんだろ?」
「おい…!跡部!」
薄ら笑うように言われ腹が立たない訳ではない。実際ここ2年くらいは彼氏もいないしそういう事もない。忍足さんが青ざめながら跡部を止めているが、こんな性格悪い大学生のボンボンに年上の自分が言い返すのも大人気ないのは重々承知だ。
「いないですよ?でも跡部さんにみたいに顔は良くても性格悪い彼氏は欲しくないですね」
「は?」
「では、帰って別の仕事いただいきますんで。夕飯はご自分でご用意して下さいね?」
ピクリと眉の端を動かした跡部に今度こそ笑顔で返して部屋を出た。
空を曇ってるし頭痛はするし何から何まで最悪だ。
20181023
勝ち気なエリオット