
「えー、ほな俺はAランチで。お姉さんは?」
「あー…私も同じので」
平日の時間も時間、店内をぐるっと見渡せば小さい子供を連れたママ友の集まりだったり本を読みながら窓際の席に座る人、出てきた料理を色んな角度から撮影してはスマホを手から離さない女子大生風な女の子達…。
そんな中に紛れ込む形で私と忍足さんは向かい合って座っていた。
遡ること数日前。
跡部のもとで働くのが嫌になった私は田中さんに直談判ししばらくの間別の方の家に勤めることになった。その時にたまたま通りかかった跡部のマンションの前で忍足さんに連絡先を交換させられそして何故かご飯に行く事になり…そんな感じなんですが。
「………」
へーこんなのもあるんや、なんて肩肘つきながらメニューを見みる忍足さんは無駄に絵になる。
男性と二人きりで食事なんて彼氏がいた頃から全くしていないのでかなりそわそわして落ち着かない。隣の席の女子大生が楽しそうに話している声を遠くに感じる。
「あ、そう言えばお姉さん。跡部んちの家政婦辞めたってホンマ?」
跡部から聞いたんやけど、と付け加えながら興味深そうに質問してきた忍足さん。
「あー、辞めたというか…しばらくの間なんですけど。まあ私は辞めたいって言ったんですけどご実家のお手伝いさんに少し様子を見て欲しいってお願いされちゃって」
「成る程なぁ」
「…だから今は別のお家で働かせてもらってるんですけど。それでこの間マンションの前で会ったのは買い出しの途中だったんですよ」
「そしたら跡部に捕まったんや?」
「はい…」
タイミングめっちゃ悪いやんと苦笑いの忍足さん。
本当に何でこんな大らかそうな人がアイツと友達なんだろう、と素直な疑問が浮かんでくる。
「なんで俺が跡部と一緒におるんやろ、って思っとるやろ?」
「…っ、はい」
そんな分かりやすいような表情してたのか、思っている事を言い当てられてしまい戸惑う。でも嘘はつけないのではいの返事をしてしまった。
「まあ、跡部はなぁ…お姉さんが思っとる姿そのままっちゅー感じやね」
「と言うと…」
「あの俺様な感じあるやろ?でもあれは家が金持ちだからとかそんな所から来るもんやなくて、なんやろ…もうアイツの生まれ持ったもんやな」
「やっぱり」
「ちょ、やっぱりて」
くすくす笑う忍足さん。
「あいつ見た目があんだけええのもあるけど、頭もええし、テニスもめっちゃ上手いんや…せやからアレくらい自分が中心に世界が回っとるって思っとってもアイツならおかしないんやろな」
「でも人として何かしら欠落してると思いますけどね」
「ははっ!めっちゃ言うやん!お姉さんのそういう所好きやわぁ」
「どーも…」
肩を震わせながら笑う忍足さんに私も釣られて笑ってしまった。
「でも本当跡部にあんな言い返したり啖呵切ったりする女の子始めてみたわ」
「なんか…すみません」
「いやいや、単純に驚いてるねん。それと同時にあんなに女の子に嫌な絡み方する跡部も初めてやなぁ」
「…本当私何かしたんですかね」
「んー、跡部の行動は俺でも分からん時あるからなぁ」
よう分からん奴やな、と苦笑いしてる忍足さんと私の元にAランチが来た所でその話は変な終わり方をしてしまった。
これ美味しいですね、せやろ?学科の奴らに教えてもらってん、とか忍足さんの学生生活の事だったりサークルの事だったり色んな話をした。サークルと言えば勿論あいつも所属しているわけで、必然的にまたあいつの話に戻るわけで。
「テニスしとる跡部見たことないんやろ?」
「勿論ないですね」
「あ、ほなら今度ウチの大学来たらええやん」
「は?!」
「通りかかりました〜くらいのテンションでええし」
「え、いや、…辞めておきます」
「えー、なんでなん」
大学なんて…私は地元の小さい短大卒だからそういう場所がどんなかも分からないし、なんかそういう所ってキラキラした人で溢れかえったそうでかなり場違いだと思うし…かく言う忍足さんもそのキラキラ要員の一員だと思うし。あと何より、
「そうまでして跡部を見に行く必要性がないです」
そう言えば、きょとーんとした顔で私を見る忍足さん。数秒してから、
「はは!確かになぁ!まあ、無理強いはせぇへんし、なんとなく見たら面白いんちゃうかな、って誘っただけやし」
またケタケタ笑う忍足さんは本当に気まぐれで誘ったんだろうか。
「お姉さんほんま跡部の事嫌いなんやな」
「嫌いというか…苦手です」
あんな絡み方されて嫌にならない方がおかしくない?むしろ今となっては一周回って興味すらない所まで行きそう。そんな跡部でもこんな忍足さんみたいな人と仲良いんだから人ってよくわかんないね。忍足さんはもう分かり切ってるみたいなこと言ってるし受け入れてるみたいだけど、生まれ持った横暴さで私はあんな理不尽な事言われてるか。どうなんだそれは。
「忍足さんて凄いですね」
「え、なん急に…」
「なんか大らかで…」
「言うたらお姉さんも凄ない?あんな跡部に啖呵切る女の子見たことないわ」
「だからそれって褒めてます?」
笑いが隠しきれてない忍足さんにため息を吐きながら一緒に頼んでいたレモンティーを飲み干す。
「でも…田中さんに言われたんですよもう少し様子見て欲しい的な事」
「あ、言うてたね、完全に辞めたんとちゃうんやな」
「辞めさせてもらえませんでした。まあ、雇われの身ですし、むしろ叔母に雇ってもらってますし」
「んー…俺ももう少し続けてて欲しいわ」
「なんか面白がってません?」
「そんな事ないって」
異様にニヤニヤ顔の忍足さんを不審に思う。
「しばらくしたらまた跡部んとこ戻るんやろ?」
「はい…」
「まあ、そん時は俺が話聞いたるで?ストレス発散にまたご飯でも行こや」
「結構な頻度で呼び出しちゃうかもしれませんよ?」
「はは!全然ええで、大歓迎」
2人してまた笑いながら席を立った。
20190210
勝ち気なエリオット