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水場が近い方が料理をするのに都合がいいため、車から離れ井戸の横スペースを借りて里奈と私の二人分の朝食兼昼食を作っていた。
緊張疲れからか起床が遅れたため、今から朝食を食べてまたすぐ昼食というのも胃のスペースと残りの食材的にも厳しいため兼用にしてしまった方がいい。
食事を作り終えた――と言ってもウインナーと卵焼きだけだが――頃、いつからいたのか壁に寄りかかっている高杉と目が合いとりあえず「おはようございます」と言ってみたものの、鼻を鳴らされただけだった。
最後まで私達の居候を良しとしなかっただけあって、他の見張りの人がいるにも関わらず合間を縫ってこうして見に来ているのを見ると相当信用されていないんだなと改めて思う。
とは言え、こちらが妙な真似をしなければ斬りかかられることがないということは昨日寝るまでの間で分かったことなのでスルーするに限る。 ……のだが、
「あのー……よかったら一本食べます?」
こちらの様子を見つつもその視線がチラチラ手元のウインナーに向いているのが気になりすぎてつい声をかけてしまった。わかる。ウインナーからおいしそうな匂いするし。
ピクリと反応を示すも中々受け取ろうとしないが、その目線の先には爪楊枝に刺さったウインナー。
何だこれちょっとかわいい。などと口に出したが最後首が飛びそうなので黙ってはいるが、この様子をうかがう感じが懐かない猫のようで……。
「私も食べてるしこの後里奈も食べるので毒とか入ってませんよ」
そう言って更に手を伸ばせば受け取ってくれた。餌付けに成功した瞬間のようでちょっぴり嬉しいのは内緒だ。
――そんなこんななやり取りがあった後、一向に起きてこない里奈を起こしに行こうとしたらなぜか高杉がその役目をかってくれたのはいいのだが……二人揃って戻ってこないとは如何なものか。
しかも車の方向から里奈の怒鳴り声が聞こえた気がするのは多分気のせいじゃないだろう。起こしに行くのをかってくれた時にこうなるんじゃないかな……何て掠めたが、予感的中といったところか。
止めに行くのもアリだが正直それで巻き込まれたらたまったものじゃないし、高杉もただの喧嘩で丸腰相手に斬りつけるようなことはしないだろうと結論付けて、二人が来るまでに食器や調理器具の洗浄だけ済ませてしまおうと井戸に桶――つるべ というらしい――を落とす。
これがまた重労働で、井戸が深いため水がたっぷり入ったつるべを引き上げるのがとてつもなくしんどい。
慣れれば多少はマシになるだろうがこれは筋肉痛待ったなし……とプルプル震える腕で紐を握りなおそうとした時、あれだけ感じていた重みが一瞬にしてなくなったために力んでいた分バランスを崩して尻もちをついてしまった。
「〜〜っぁあー……やば! 紐切れ……た?」
突然重みがなくなったという事は紐が途中で切れてつるべが落ちてしまった と思い、慌てて井戸に視線を戻せば、そこには水の入ったつるべを引き上げる銀時がいた。
「おっまえ…もやしだって言われて怒るぐらいならこれぐらいさっさと上げろよな。男だろ」
そう呆れた目でこちらを見る銀時に、昨夜里奈と話していたことを思い出し、改めてその口から男だろと言われるとカチンとも来る。が、それより笑がこみ上げそうになるのをぐっと我慢する。
本当に男だと思っているらしいのでこれはやはりバレるまでとことん男で貫き通して、バラした時の驚いた顔を動画に収めてやると心に誓う。
「余計なお世話ですよ。私のいた世界では蛇口をひねればすぐ水が出る親切設計だったんです」
水ありがとうございます!と強引につるべを奪うも水の重みで一気に前かがみになってしまったため、銀時がニヤニヤしているのが雰囲気でわかる。
「はいはいどうせ私はもやしですよ。いいじゃないですかもやし。安いしおいしいし」
「別に何も言ってないだろ」
「目は口程に物を言うって言いますけど、貴方は顔面がお喋りなようで。いい加減そのニヤケ顔やめないと熱々のフライパン近づけますよ」
そうじとりと睨めばわざとらしく慌てる素振りに笑ってしまう。
「ところで、何か用ですか? それとも見張り?」
先程の高杉は食べ物につられたとは言え一応見張りとして来ていたわけだが、銀時も同じように見張りできたのかと問えば特にそういうわけではないらしい。
攘夷時代――つまり現在戦争中なのに、こんな昼に近い時間までここに居ていいのだろうかと疑問がわく。
「旨そうなニオイがしたら覗きに行くしかねェだろ?」
「ハイエナですか。 って言うかこんな時間まで居ていいんですか? 見た感じ今って戦争中なんですよね」
どうやらウインナーのニオイは吸引力が凄いらしい。先程の高杉同様視線がウインナーに注がれているのを見て、同じように爪楊枝に刺して手渡せばすんなり受け取ってくれた。
「お前中々辛辣なのな。あとその働かないニートを見るような目もやめてくんない!?銀さん傷つくわーーーー!!」
「ウインナー頬張りながら言っても説得力ないですから。あと被害妄想やめてください。確かに戦平気なのかなとか思いましたけどニートとか思ってないですよサボリなのかなとは思いましたけど」
それ割と同じじゃね!?と突っ込まれたものの、適当に流ししつつ食器を洗っていけば反応が返ってこないからつまらないと思ったのか、今日は作戦会議のようなことが行われるためここに居るらしい。
他にも物資の調達など一時的な休戦時に行っておかなければならないらしく中々に忙しそうだ。
「で、皆さん働いてるのに貴方はここでウインナーのつまみ食いですか。やっぱりサボリじゃないですか働け」
またオーバーなリアクションでも返してくるかと思ったが、銀時は何か考える素振りをみせた後「それ」というものだからつい「どれ」と軽く返してしまう。
こっちが一方的に銀時を知っているだけだからあまり馴れ馴れしくしないようにと思っていたのに、先程のやり取りもそうだが実際話し出すとどうにも軽口を叩いてしまう。ただ銀時はそんな事気にしていなさそうではあるが。
「その貴方っていうのやめね?」
「……と言われても。直接名前を聞いたわけでもないし、昨日の今日でいきなり馴れ馴れしく呼んだりするのもどうかなーなんて」
そう言えば、名乗ってなかったか? なんて言いながら坂田銀時だと、これで普通に呼べるだろと言ってくれたので自分も名乗っておく。
「とは言っても急に何て呼べば……坂田さん?」
「なんか硬い」
「さっきも言いましたけど昨日の今日ですよ私ら会ったの。硬くて普通だと思うんですけど……苗字がダメなら銀時さん?
……ダメだ、今度は私がしっくりこない」
銀魂の話をするときは銀さんと呼んでいたため、ここにきて苗字ならまだしも銀時さんって呼ぶのは物凄く違和感を感じる。こう……もぞもぞする感じ。
他の攘夷の皆さんは坂田さんとか銀時さんと呼んでいるんだから私も坂田さんでいいだろうに。 そんな思考が顔に出ていたのか、歳も近そうだしそういうのもアリだろ なんていわれるから、そうなればあと私がしっくり呼べる呼び方と言えば……
「銀さん。どうですこれならちょっと馴れ馴れしい感じでしょう」
「なんでどや顔」
これ以上ダメ出しは受け付けないといった感じで言えば、それをどや顔ととらえたらしい銀時が噴き出した。
銀時が何を思って私にちょっかいを掛けにくるのかはわからないが、それでもこうして直接話せて馴れ合った呼び方を求めてくるのは銀時好きとしてはとても嬉しいことなのであまり気にしないことにした。
その後も何気ない会話を楽しみながら丁度食器を洗い終えたころ、銀時がいつまでたっても戻ってこないことでお冠な桂が来たことでお喋りタイムは終了した。
「それじゃあ、会議頑張ってくださいね」
そう言って渋る銀時の背中を押せば、渋々ながら桂の方へ歩みを進める。
そうして部屋の中へ入ろうとした時、ふと振り返った銀時が「ところで料理できるんだな」と、最後に男なのに なんて聞こえてきそうな言い方に苦笑をもらしながら、家では毎日やってたから。と答えておいた。
「ウインナーは焼くだけなんで料理って程じゃないですけど……でも家事の一つぐらい覚えておいた方が良いんじゃないですか?できる男はモテますよー」
「マジでか」
ちょっと料理教えろなんて言い出しそうな反応を示した銀時だったが、前を歩く桂に引きずられてその姿は部屋の中へと消えていった。
そんな光景を見送りつつ、これで近い未来にはケーキワンホールをぱぱっと作れるようになるんだよなー。なんて思えば笑みがこぼれた。
ウインナー
(やばい、里奈のごはん冷めちゃった)
11/1029→17/0624