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原作での死の未来を変えよう
そう決めてから数日。私達は変わらず車中生活を続けていた。
というのも、依然として見張りはついていて――初日と比べると見張りの人たちとだいぶ打ち解け、雑談する仲ではあるけれど――あまり自由がきかないためである。
目下の目標は何とかして信用を勝ち取ることだが、そう易々と信用してくれるようなら今現在見張りはついていないだろう。
どうしたものかと思案するも、あまりいい作戦は思いつかず、仕方なしに昼食の後片づけ。
「ここだけ見てればいたって平和なんだけどなぁ。 お兄さんごめんね、私達がいるせいで見張りなんてさせて」
カチャカチャと食器を洗いつつ、随分仲良くなった見張りであるお兄さんに声をかける。
会話、すなわちコミュニケーションは信頼を勝ち取るのにとても重要。ラスボスである高杉を攻略するにはまず外堀から埋めるのが一番だと、里奈と積極的に絡みに行っている。
「いや、寧ろここだと気を抜けるから十分休ませてもらってるさ」
「一応見張り対象についてるのに“気を抜ける”って私達めちゃくちゃ舐められてるじゃないですか」
「そう睨むなって! まあもし二人がかりで来たって後れを取ることはないと思ってるのは確かだけどな」
はははと豪快に笑うお兄さんをジト目で見つつ、実際そうだろう事はわかるので何も言わない。
私達の目的は安全に元いた世界に帰ることであり、さらに言えば三郎の処刑の回避。合間で推しといくらか話せれば重畳というわけなので、無暗に争いを起こすつもりはない。
「そういえば前から思ってたんですけど、その首から下げてるのってお守りですか?」
わざとらしく大きなため息をついてやりながらお兄さんの首元に視線をやる。
以前からチラチラと見えていたそれは綺麗な青色のお守り袋に見え、里奈と彼女からの贈り物では?何て盛り上がりもしたことを思い出す。
意趣返しにとニヤリと笑えばわかりやすく顔を赤くしたお兄さんは子供には関係ないことだ!何て慌てるものだからこれは里奈と根掘り葉掘り追及してやろうと最後の皿を洗い終えた時、奥からバタバタと慌ただしい足音と同時にドカンと聞き覚えのある音と振動が足元を揺らした。
「おい!天人がここを攻めてきた!」
「何!?総督たちはッ」
「今知らせに行っている!ここに残った奴らで応戦してるが間に合うかどうか……」
クソッ と吐き捨てるように言った見張りのお兄さんは、私と音のする方を交互に見やり荒々しく頭をかく。
仲良くはなれど、見張っておけと言われている現状、それを放って騒ぎの方へ応援に駆けつけることはできない。かといって攻められている以上応戦する人手が多いに越したことはない。
とんだタイミングで見張りになってしまったと思っているのか……されど、この緊急の場において長く考えることはせず、深く息をつくと車のタイヤの前後に置いていて石をどかし始めた。
「えっお兄さん何してるんですか」
「敵か味方かわからないから見張っておけと総督に言われてはいるが、同時に桂さん達の命の恩人だと聞いている。
数日しか言葉を交わしていないが、俺には二人が敵だとは思えない。
だから、これは俺の独断だ」
そう言って石をどけ終えたお兄さんは、すぐここから車で逃げるようにと続ける。
「嫌です!私達だって何か力になれることが必ずあると思うんです」
「そんな細腕で何言ってんだ。第一もう一人はどうする?向こうは女じゃないか。そんな二人が来たところで足手まといにしかならないって言ってんだ!!
出ていかないならせめてその硬い乗り物に乗って鍵閉めてろ!!!」
もうこれ以上話す時間が惜しいというようにそう言うと、さっと背を向けていってしまった。
確かに私達に戦う力はないし、その場に出て行っても足手まといにしかならない……お兄さんの言葉が頭を木霊する。
でも、何かあるはずだ。私達にできる何か……何でもいい、足手まといにならず、私達にできる事……!
“せめてその硬い乗り物に乗って鍵閉めてろ”
硬い……乗り物……?
「ひとみ!!この音何!?爆弾!?」
騒ぎを聞きつけた里奈が慌てた様子で駆け付けてきたが、事情もそこそこに私達は言われた通り車に乗り込み鍵をかける。
そうだ、初日に何度かしたことじゃないか。
見つけた。私達にもできる事…!!
* * * * *
「クソッ 総督たちはまだか…!!」
攻め入ろうとする天人に応戦しつつ口を付くのはもう何度目かのその言葉。
最近保護し、見張りの対象である二人を残してこちらへ駆けつけたものの、戦況はあまりよくはない。
今ここに居る天人の数がさほど多くないが、それはこちらも同じことで現状ギリギリ持ちこたえていると言っても過言ではないし、敵にさらなる援軍が来たら正直厳しい。
とは言え、あの人たちにここを任されている身としては泣き言など言っていられない。
何より、たった数日だがその人となりを知り、気を許してしまった二人のもとにコイツらを行かせるわけにはいかない……目の前の敵を斬り捨て自分を叱咤したとき、聞きなじみのない音が奥の庭の方から聞こえてきた。
「お兄さん安心して。絶対足手まといにはならないから」
そう聞こえたと思った瞬間、前方にいた天人たちが一瞬にしてかき消えていく。
何が起こったのかと意識を向けた時、視界に映ったのはあの硬い乗り物。
それがそのスピードを緩めることなく辺りの天人を引き倒していくところだった。
「な!?お前達逃げろと言っただろ!!」
「正直めちゃくちゃ怖いし逃げたいのも事実だけど……お兄さん達が必死に戦ってるのに、それに守られて逃げるなんてきっと後悔するから!!」
そう叫び返しながらも天人達をなぎ倒すその姿に、後で足手まといと言ったことを謝らなければと笑う。
この好機を逃すまいと残りの天人に刀を向けた時、遠方に総督達が見えた。
* * * * *
ガヤガヤとにぎやかな声をBGMに、私達は仁王立ちしている桂の前に正座をして座っていた。
「まったく。無事だったから良かったものの……何故あんな無茶をしたんだ」
「……皆が戦ってるのに自分達だけ逃げろとか足手まといとか言われてですね……こなくそ自分達だってやるときゃやるぞ、と」
形だけはすみませんと謝っておくも、先について出た言葉の方が本心だとわかっているようで、桂の口からは深いため息が漏れる。
実際危ないことをしたとはわかってはいるが、それでも一応はここを守った一員でもあるのだからお小言は大目に見てほしい。
あまり表情に出しているつもりはなかったが、どうやら同じように横で正座をしている里奈の表情からそのことを感じたのであろう。最終的には 助かった と困ったように笑われた。
「ここが攻められてるって聞いた時は一瞬ヒヤッとしたが、それも杞憂だったな」
酒を掲げながら機嫌のよさそうな銀時にバシッと背中を叩かれ非難の視線を送る。
「ちょっと銀さん、酔っぱらうのは勝手ですけど絡み酒はどうかと思いますよ」
「いいじゃねェか少しぐらい!ほら、お前も飲めよ」
「結構です」
相変わらずツレねェなとめざめざ泣き真似をするこの男にこんなに酒を飲ませたのは誰だ。
漫画でも思ったが、どうも銀時は酒に弱いように見える。とは言え、それでも外から物音がすると何気なく視線をやっているところを見ると流石と言わざるをえないが。
あの後勢いのまま里奈と車で天人を轢きまくり、何とか難をしのいだところで銀時達は合流した。
天人を轢く私達の姿に若干表情を引きつらせていたが、それでもこの場所を守ることに一役買ったことを喜んでくれて悪い気はしなかった。
最後まで私達を疑っていた高杉も少しは認めてくれたのか、この件に関して突っ込んでこなかったし、車のタイヤの前後に石を戻そうとしたら必要ないと言ってくれて里奈と二人で喜んだ。
「ほら銀さん、飲み過ぎなんじゃないですか水飲んで水」
「お?あの井戸から上げれたのか?」
「もう井戸ネタは十分ですー」
そうして当初よりだいぶ打ち解けられたことを実感しつつ、その日は車ではなく家屋の中で雑魚寝をした。
変化の兆し
(皆イビキうるさい車で寝た方がマシだぞこれは……!)
18/0424