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最初に気付いたのは車の外装だった。
初日に何人かの天人を轢き逃げした後、だいぶ凹んでいるだろうなとボンネットを確認してみると凹みどころか傷一つなかった。
次に気付いたのはガソリンやバッテリー。
今は本陣の庭に停めているが、ここに来るまでにかなりの距離を走ったはずなのにガソリンのメーターはピクリとも動かずそのまま。
バッテリーに関しても、車内の暖房をつけたまま何日も過ごしているが上がった様子もなく普通にエンジンもかかるし走らせることができた。
元いた世界ではありえない事にひとみと二人で考えるも、結果はいつも通り分からず終い。無理やり結論を出すとするなら、ご都合主義のお約束・トリップパワーといったところか。
ここにきてメキメキとスルースキルが上がっている気がするが、構っていられない物はどんどん流すことにした。
この件に関しては特に損しているわけではないし、寧ろラッキーなので本当にご都合主義有難う御座います!!と感謝さえする。
そして、先日の本陣襲撃から度々戦場に車で乗り込み皆の援護をしており、その信頼度は着実に上がってきていた。
おかん筆頭の桂や主要組にはあまりいい顔をされないが、他の皆がワイワイと持ち上げてくれるし実際少なからず役に立っているので大きく否定できないようだ。
「んー 今日も働いた働いた」
車から降りてぐっと伸びをし、お疲れ様の意味を込めて車を軽く撫でる。 今日もだいぶ汚れてしまったから洗わなきゃと井戸に向かおうとしたところで、こちらを呼び止める声に足を止めた。
「あれ、三郎じゃん。どうしたのその機械」
声のかけられた方に視線をやれば、何やら厳つい機械を担いでいる三郎がいた。
三郎は原作で高杉に“機械に強い”と言わせるだけあって、ここでも機械武器をメインに作っている。父親と喧嘩した原因を作るのに思うところはあるみたいだが、それでも親譲りの機械バカらしく、車の性能を聞いた後はこうしてちょくちょく車を見せて欲しいと言いに来る。
ただ一つ問題があるとするなら……
「これか?これを車に取り付ければ車のスピードが更に上がって……」
と、隙あらば改造しようとするところ。
最初に車の説明をした時も、分解させてほしいから始まったのでまだマシになってはきていると思いたい。
「だから車の改造はしないって言ってるんだけどなんでそう次から次に持ってくるかな?!」
実を言えば三郎のする改造に興味がないわけではないが、この先元の世界に帰れた時の事を思うと何としても改造は阻止したい。
帰ってこれた!の後にすぐ逮捕されるのは勘弁してほしい。
「おい、そんなところで油売ってる暇あるならバカのとこに行ってやれ。探してたぞ」
「あ、総督」
そうして何やかんやで三郎と交流するようになってからなんとなく予想はしていたが、高杉とのエンカウント率も上がってきていた。
初めは自分達の見張り。今は理由はわからないが喧嘩を吹っかけてくるのだ。 小さな嫌味ではあるが、どうしてだかそれをさらっと流す気になれず、常に売り言葉に買い言葉で返してしまうせいでいつもギスギスしている。
ひとみに子供じゃないんだからと言われたし、自分でもわかってはいるのだがこればかりは仕方ない。
「坂本さんが俺に?新しい銃でも入ったのか……ちょっと行ってくるので総督これお願いします」
そう言って三郎は手に持っていた謎の機械を高杉に押し付けて奥へと走っていく。
地元からなのか様々な物資調達をする坂本。その仕入れる物資の中には当然武器もあり、中には一風変わった機械もあるので意外と二人はよく一緒にいるのを見る。
……その姿が完全におもちゃを貰った子供だとは内緒の話である。
「三郎の中で馬鹿イコール坂本って成り立ってるの流石に可哀想になってくるわ……」
「アイツがバカなのは今に始まったことじゃねェし間違ってはないからほっとけ」
と言うかお前もバカって呼ぶのやめてやれよとジト目で高杉を見やれば、三郎に押し付けられた機械を訝し気に見ていた。
「……何だこの機械」
「三郎が車のスピードアップの為に作ったみたいだけど、何度も言うけど改造する気ないって断ったもの」
スピードアップと言っているし、形状がテレビで見た飛行機の横についているアレに似ているのでおそらくジェット噴射的な奴だろう。
「アイツも懲りないが、一つぐれェつけてやってもいいだろ減るもんじゃあるまいに」
「減らなきゃいいって問題でもないんだよ。うちの国では派手に増やすのも駄目なの」
夢がねェな。 なんてボソッと言うあたり、やはりというか男の子――子、何て歳じゃないだろうけれど――なんだなと口元がにやけるのがわかった。
そうだよね、ロボットとかメカってロマンだもんね。
「まあそれ付けることはないからその辺に置いといて、ちょっと手伝ってよ」
そう言って井戸を指させば、何のことかわかっていないだろう高杉は首をかしげる。
「結構車汚れちゃってるから洗いたいんだけど、井戸から水汲み上げるのってだいぶ疲れるんだよね」
「テメェのだろ」
暗に自分の事は自分でやれと言っているその目を放っておいてほらほらとせかす。
確かに自分でやればいい話であるが、何せ重い。上がらないことはないが重い。現代っ子の非力さなめんな。
なんで俺が なんてぶつくさ言いながらも結局は協力してくれる辺りが根は優しいんだよな、と思う。
ここが攘夷時代だからなのか、この高杉はまだ子供っぽい。原作のラスボス感が薄いというか、キレやすい若者という言葉がぴったりな気がする。
「ほい、ありがと。流石に毎日洗うのは大変だからこういう時にやっとかないとねぇ」
「小間使いがいる間にか」
高杉は皮肉気に言っては来るが、濡らしたタオルで車を拭くのを手伝ってくれている。
それを見て、鬼兵隊の人達は彼のこういうところを知っているからついていくんだろう、とふと思った。
粗方汚れを拭ってから水で流し、仕上げに乾いた布で拭き取れば専用洗剤はないものの車はピカピカだ。
ガタガタ道を走って小石跳ねもあるだろうに小さな傷一つないのは流石トリップクオリティと言わざるを得ない。
「これでまた安全に走れる。手伝ってくれてありがとね」
嫌味を言ったのは最初だけで、それから黙々と手伝ってくれた高杉にそういえば何とも言えない表情でこちらを見てきた。
「なにその“テメェが素直に礼を言うと思ってなかった”って言いたげな顔」
「……わかってんなら聞くな」
「っかーーーー!別にうちだって手伝ってくれたら礼の一つぐらい言えるっつーの。そこまで俺様じゃないわ」
「だから声には出さなかっただろ」
「はいはい、うちが悪うございましたーーーッぶ?!」
思い切り嫌な顔をして言ってやれば顔に何かがビシャッと当たり、痛いし冷たいしでずり落ちたそれを見てみれば濡れた布。
「おっま!これさっき車拭いた雑巾だろきったな!?何てもんなげんだこの野郎!!」
拾い上げたそれを投げ返してやれば、こともなさげに避けられたがそれを見越して自分の使っていた雑巾を避けた方向に全力で投げてやる。
それも避けられたがだいぶ間一髪だったようで少し焦った声が聞こえた。
「二枚投げるとか卑怯だろあたったらどうすんだっ」
「それが!どうした!うちは顔に当たったんだけどそれはどうすんだ!」
投げるものがなくなったが幸い今は冬。現代ではあまり雪が積もらない場所に住んでいたがここにはたんまりあるわけで、それを掴めるだけ掴んで投げまくった。
結局ひとみ達が止めに入るまで雪を投げあっていた自分達は当然ながらびしょ濡れで。
翌日若干の鼻声で現れた高杉をピンピンした体で笑ってやったのだった。
持っててよかった総合風邪薬
(なんでピンピンしてるかって?それは現代医療のたまものよ!)
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