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「ごめんなさい」

昨日温泉を掘りあてた際にトラブルがあり、肩を負傷していたことを黙っていた友人の謝罪にどうしたものかとため息をつく。

昨日は厄介ごとを避けるため早々に眠りについたが、朝起きて隣にいる友人の姿にビシリと固まった。
夜に別れた時にはしていなかった三角巾はその腕を固定するようしっかりと巻かれており、着物のあわせから除く包帯が何かあったのだと主張していた。
一体あの後何があったのかと腕に衝撃を与えないように揺り起こせば呑気にあくびをしながら腕を上げようとして痛みに呻きだす始末。

その後理由を聞き出そうとすれば何やら悩む素振りを見せるものだからこれは正直に白状しないなと見切り、朝食にしようと車外に連れ出したところでばったり出会った桂に協力してもらい問いただせば諦めたように渋々と話した内容にため息しか出ない。
私と桂が無言なことに居た堪れなさを感じるのか、「自損」「途中まで痛くなくて忘れてた」「今も割かし平気」などもごもごと言い訳を連ねているので、一言「報連相」とにこやかに言ってやればくぐもった声を絞り出した後静かになった。

私と桂にしっかり絞られ、うなだれながらもそもそと朝食をとる里奈を見ながら意地悪そうに笑う高杉を視界の端にとらえたがとりあえずそっとしておこう。


「ともかく、今後はちゃんと教えてよ。後から知るとか心臓に悪い」

はぁい と気の抜けた返事を返され、本当にわかっているのかとじとりと見やれば「わかってるよ」と不満そうに返される。
これから暫くは絶対安静にさせなければ。負傷したのが利き腕でなかったことが救いだが、片手での運転は色々まずいので完治するまで運転を禁止する。
何か言いたげな視線を貰ったが、正直今回のことで戦場に行かなくて済むのならと内心ほっとしていた。

武装した天人はやはりというか私達より頑丈で、スピードの乗った車に轢かれても重症にこそなれどそれで死ぬことはない。
大体は攘夷の道を開くことと銃などからの盾となることを目的として戦場を走っており、実際に私達が誰かに止めを刺したことはなかった。
ただ、そうはといえど生き物を轢くという行為は到底許容できるものでもなく、今はただ皆が無事ていてくれるためにと無理やり飲み込んでいる部分がある。

可能であればこの先も、心の平穏の為に見ない、気付かないふりをさせて欲しい。


そうして幾日が経ち、私達は未だ戦場には戻っていない。


* * * * *


「そんなとこいると風邪ひくぞー」

「わ、銀さんか」

ぼーっと何をするでもなく縁側に腰を下ろしていれば背後からかけられた声に肩が跳ねる。

「考え事か?」

「いや、別にそういう訳じゃ。ただ、色々難しいなと思いまして」

ぽつり、ぽつりと小さくこぼした文脈もめちゃくちゃな単語区切りの言葉を拾い上げるように聞いてくれる隣の存在が中々心地よく、気付けば自分の頭を整理するようにゆっくりと吐き出していた。

助けになるなら嬉しい。
でも迷惑になる。
覚悟ができない。

そうして誤魔化しながら居るのが辛い。

一つ一つ静かに、独り言のように吐き出すそれにじっと耳を傾け、時に相槌をくれる声が慰めてくれているよう……なのに。
それが酷く つらく感じた。

「こんなこと言うと怒られそうなんですけど。私、皆の顔をあまり見てないんです。
普通に会話しながら過ごしてるけど。見てるふり。鼻とか、口とか、首とか。全体を見ないように、パーツとして」

「……なんで」

「…………意地悪ですね。わかってるくせに」

お風呂まだでしたよね と暗に話はここまでと含めば、先程までと同じトーンで肯定の一言。
縁側から降り車へ向かうため少し足を進め距離を取ってから振り返る。

「それじゃあこれで。有難うございました、おやす「それを、――――……」

おやすみなさい 言いかけたそれに被せるように発せられた声に少しだけ笑って返したが多分……――


それを、否だと言ったら。
(……きっと情けない顔になっていたんだろう)
18/0925