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それは、ちょっとした意趣返しのつもりだった。
皆が皆口をそろえて言うものだから、やってきた全てを否定されたような、自分だけわかっていないと言われた悔しさ。
だから、自分は間違っていないと。少なくとも否定されることはしていないと。証明したかった、
だけなんだよ……―――――
* * * * *
「……え?」
「だからね。怪我が治っても今後は戦場に出ないで、ここで出来ることをやって皆の力になりたいんだ。最初に提案したのは私だったけど、あの時と今とだと現状も違ってきてるし、これ以上この戦とかかわりのない私達が参加するのはかえって邪魔になると思う」
夕食もお風呂も済ませてそろそろ寝るかと車へ向かおうとした時ひとみに呼び止められ、その横には攘夷四人もいるものだから何事かと呼ばれた部屋へ向かえば突然告げられたそれに理解ができなかった。
「あーっと……前からひとみが渋ってたのは知ってるんだけどなんでまた?」
とにかく理由をと問えば、自分達の行動が目立ってしまい、逆に負担を負わせる可能性やこの戦に関して何か志などないのに悪戯に参加するのはよくないんじゃないかと説明される。
「確かにうちらが割って入ったところで劇的に何かが変わるとは思ってないけど、でも役立たずではないよね?怪我人をいち早く運んだり、銃弾や砲撃からの盾になることだって範囲は狭いけどできてる。盾や足は多い方がいいんじゃないの?目的だって皆の盾や足になることって明確じゃん!」
「それはそうかもしれないけど」
「なら!」
「……俺も現状のままは好ましくない」
なら行ってもいいじゃないかと反論しようとすると、それに被せるようにずっと聞き役に回っていた桂が口を開いた。
「確かに、こちらの被害は二人のお陰で救われているところはある。それは勿論感謝するが……このまま二人が戦場に出続けることは武士として容認できんのだ」
「武士としてって?え、うちらが武士じゃないから協力しちゃダメってこと?戦える力があるのに、武士じゃないから使うなって?おかしくない?目的があって戦してるなら使えるものは使うべきでしょ。協力するって言ってるのに何でダメなの」
桂が何を言いたいのかわからずついイラつきのままに言い返してしまうが、ダメな理由が 武士として容認できない なんてそんなおかしなこと言われてはいそうですかって聞き分けよく納得できるはずがない。
確かにひとみはこの頃戦場へ向かいたがらない。それはうちが肩を怪我をする前から少しずつ口にしていたが、元々車で戦場に出ることを提案したのがひとみであるためか強くは拒否しなかった。今までは。
でも四人を連れて言うくらい嫌なら勿論うちだって無理強いはしないし、基本何でも器用に要領よくこなすひとみは家の中で出来ることも多いだろうから中に残っても皆の力になるだろう。
でも、自分はここで何ができるのかわからない。容量がいいわけでもないから何かやるにしても時間がかかるし、それなら自分だけが持っている大砲をもしのぐ車で直接的に協力できる方法を取りたいだけなのだ。
時間が空けば話し相手になってくれる皆の力になりたい。漫画で名前が出ていなかった人達だって目の前で動いている人間なのだから、その力になりたいと思って何が悪いのか。
「武士だの何だのは大して関係ねェさ。ただ覚悟がなけりゃ務まらないってこと」
「覚悟?」
「そ。ここに居る奴らは覚悟をもって戦に臨んでる。でもお前にはそれがない。だから俺達は止めてんだ」
なっ と銀時は横にいるひとみに振っているが、言われたうちは何とも腑に落ちない答えだ。
覚悟なんて、この世界で生き抜いて帰らなきゃいけないという前提がある以上してるに決まってる。
トリップしたてでここに保護される前に起きた一連の事で車の耐久度は保証されてるし、それがあって安全だとわかっているから無茶だろうと思うことも可能にしている。
それを知っているはずなのに、なんで皆して否定するのか。分かってないのはうちだけだとでも言いたいかのような雰囲気にこれ以上ここに居たくないと体が拒絶し始める。
「まあまだ肩も治ってないことだし、とにかくじっくり考える時間も必要じゃ。のぉ?もう今日は遅いき、はよう寝るとええ」
そんなことを知ってか知らずか、坂本が手を叩きながらそう言えばいくらか部屋の空気がマシになった気がした。
言い分を分かってもらえない苛立ちもすぐには散りそうにないため、言われた通り立ち上がり車へ向かう。
帰り際、ひとみに今日は内に泊めてもらうから、気にしないでゆっくり考えて欲しいと言われたがそれに返事はしなかった。
翌日、ふと鼻孔をくすぐる香りに目を開ければ、運転席の座席にひとみが用意したであろう朝食が乗っていた。時間もたっているだろうそれは冷めていたがいつもの様においしい。
昨日の今日な上、納得もできなかったので顔を合わせないように食器を片付け車に戻る。時刻は既に正午間近。おそらく既に皆は戦っているであろうために辺りはしんとしている。
実行するなら今だと急いで車に乗り込みエンジンをかけた。
車を走らせると見える黒煙に行く場所の宛をつけハンドルをきる。先程から頭をかすめる昨夜のことにこれでもかと眉が寄るのを感じるが、あの後何も考えなかったわけではない。
ひとみやあの四人に言われればそりゃ少しは考える。ただ、元からそう言ったことを深く考える質ではないため未だに答えを見つけられないでいるのだ。
それが更に苛立ちを募らせ、脳内で愚痴をぶちまける。
だからきっと、罰が当たったんじゃないかと。
だって、そうじゃなきゃいくら久しぶりの戦場運転とは言え、シートベルトやロックを忘れるなんて。
更に、轢いた天人の衣に引っかかりドアが開くなんて。
閉めようと伸ばした腕を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられるなんて。
そんな都合の悪い偶然、罰が当たった以外に何だというのか。
落ちた衝撃であちこち打ち付け、治りきっていない肩には当然の激痛。叫びたいのに打ち付けた背中の所為で息が詰まりくぐもった音しか漏れない声。
滲む視界にとらえたニタリと歪んた双眸と振り上げられたそれは同じように鈍く光る。
カチャリと指の先に当たったそれはおそらく刀で咄嗟に握る。
そのまま腕を振れば目の前のコイツにちゃんと当たるかもしれない。そうすれば助かる。
振りぬけ、振りぬけ…!!
けれどもカタカタと震える腕はそれを振りぬくどころか腕を上げることさえできず、瞬きを忘れた瞳だけが自分に振り下ろされるそれをただじっと見ていた。
罰
(ああきっとこれが、“覚悟”が足らなかったということ)
18/0929