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ここ数分の中で自分の世界は瞬きをする度に変わっている。
知らない場所に来てあたりを見渡しながら振り向けば異形とこんにちは。
恐怖体験の中では目に映るものがスローモーションのように見えるというのは間違っていなかったようで、異形が振り上げた武器をしっかり見ることができている。
あまりにも突然の出来事が重なるものだから、これを恐怖と感じているのかはさておき、今自分の頭の中は何も考えられない程真っ白に混乱していることだけはわかった。
視界が黒く何も見えなくなり、それは瞬きなんだと感じる程度にはスローモーションを体験している。
そうしてもう一度目を開けると、目の前の異形を轢き飛ばしながら突き抜けていく車が見えた。

「早く乗って!」

そうかけられた声の意味を理解するより早く、反射的に足を動かしドアの開いていた車に飛び乗った。
瞬間開いたドアもそのままに、突っ込んできたスピードのままその場を走り抜ける車にほっと息を吐く。

「やっぱりひとみだ」

流石にドアを開けっ放しにするわけにもいかず、落ちないように手を伸ばしそれを閉めると聞きなれた声に名前を呼ばれ、一瞬思考停止しながらも勢いよく振り向く。

「…え?里奈!あれ、何で!?」

久しぶりに会った友人は苦笑いを浮かべながらハンドルをきった。


* * * * *


ペットボトルのキャップを開け、中の飲料水を飲み喉を潤したのはつい先程のこと。今は小さな森の中に車を止め、座席を倒して仮眠をとっていた。
車に取り付けられている時計を見れば朝の6時だと表示されている。
この場所でこの時間は適用されるのかと車の窓越しに空を見たが、依然として分厚い雲が覆っている為確かめるすべはなかった。

戦場と思しきこの場所に突然来てから既に数時間が経過している。
人間の体とは現金なもので、どんな状態にあっても腹は減るらしい。
それでも都合のいいことにお互い正月の買い出しを済ませた後だったため、節約すれば暫く食糧に困ることはないだろう。(雪もあるから一緒にしておけば保冷剤の代わりにもなるだろうし。)

ただ、問題はそんなところではない。

此処はどこか、どうやってきたのか、どうやって帰るのか…
右も左もわからない状況で一応話し合っては見たものの、結論が出るわけもなく緊張続きで疲弊した体は睡眠を欲しているようで瞼が重い。
考えても何も進展しないのだ。これ以上起きていても仕様が無いと半ば現実逃避も含めて重い瞼を閉じた。


堂々巡り
(考えても答えが出ない恐怖に、ただ耐えるしかない)
11/0213→16/0629