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結局、戻ってきた桂から告げられたのは”地図はあるが譲るほど枚数がない”ということだった。
一応複数枚あるものの、それをもちいて作戦など立てているためどうしても譲れないらしい。
「今複写してもらっているが、俺達に専門家はいないからかなり大まかなものになりそうなんだが…」
「いえいえ。複写してもらってる間、こうして地図見せてもらっていますし十分です」
「礼をと言い出したのはこちらなのにすまない。その、色々と…」
そう言いよどむ桂の視線の先には里奈と高杉の姿。
どうにもファーストコンタクトに失敗したようで、あれから口はきいていないもののお互いに険悪な空気を放っている。
里奈の場合、銀魂で誰が好き?と聞かれれば、即答で「高杉!」と答えるほど高杉好きなはずだが今はどうしてその気配はまるでない。
一方の私は銀時が視界に入るたびに密かにテンションを上げているというのに。
あまり馬が合わないみたいですね。 と苦笑いも程々にそれはひとまず置いておいて、問題はこの後の身の振り方だ。
見せてもらった地図をまじまじ見たものの、あまり精密とは言えないものだった。(それは現代の地図を見慣れているからというのもあるかもしれないが。) そもそもこれは日本地図ではなく周辺地図。頭の中にある日本地図と照らし合わせができない。
地名を聞こうにも原作舞台が”江戸”であるため旧地名など覚えているはずもなく、先程ふと思いついた車で地元まで帰ってみよう作戦は使えないらしい。
となると、
「やっぱり近くの村まで行って情報集めるしかないか」
「お前のいたとこ、それにはなかったのか?」
「えっあ、そうみたいです…本当、どこから来たんだろうなー…」
声に出しちゃってたよ!!と内心焦りつつ乾いた笑みを浮かべ、不思議そうにしている銀時を見る。
「えーっと、この地図の村の名前とか見てもピンと来なくてですね。何て言いますかー…聞き覚えがないんです。どこも」
「覚えがない?まあ大都会ってわけじゃねぇけどここの村とか割と有名だぞ?」
怪訝そうに地図に書かれた村を指さされるが、知らないものは知らないわけで何とも曖昧な表情を返すことしかできない。
そんなやり取りに疑問を持ったのか、先程まで里奈とにらみ合っていた高杉とそれを宥めていた桂もこちらに視線をよこす。
「ほら見ろ、いよいよ怪しくなってきたじゃねぇか。こんな戦してんだ。ここらのことはガキでも知ってる」
「…確かに、この辺りの地名を見て思い当たらないというのは考えにくいが…とは言え全員が全員知っているというわけでもないだろう」
「コイツらがあのヘンテコな乗り物でこの辺うろついてたのは事実だ。それなのに知らぬ存ぜぬじゃあ通らねぇだろ。
何が目的だ。ここを探ってどうする」
いや別に探りに来たわけではないし連れてきたのそっちなんですけどなんて言える空気でもなく、どうしたものかと黙っているとおもむろに里奈が口を開いた。
「だから言ったじゃん。うちらはただ現在地がわからなくて元いた場所に戻れないって」
「それを馬鹿みてぇに鵜呑みにしろってのか?」
「あーもう突っかかりたくなるものわかるけど、こっちは事実言ってるまでだからちょっと黙っててくれな「…元ん場所」
事情を説明するのかと思ったら再び喧嘩モードに入りそうな二人の間に割って入った声が一つ。それはこの状況下でもしっかり重要な部分を拾っていて。
「元ん場所に戻れんゆうことは、そこから突然来てしまった ともとれるぜよ」
「そう。まさにそれなんだよ…て、ん? ぜよ…ってもしかして坂も「それ!そういう意味で受け取ってもらえると助かります!」
予想外の人物についポロっと名前を出しそうになった里奈の言葉を遮りながら大きく頷けば、隣にいた銀時がうるさそうに片耳を抑えるしぐさをしたが今は気にしていられない。
見たところうっかりの名前ポロリに気付いていないようで、続きを促すような視線を受ける。
「さっきの流れからすぐ信じてもらえるとは思ってませんが、私と里奈はこことは違う場所…もっと言うと、違う世界から来たんじゃないかって思ってます」
「違う世界?何故そんな突飛なことを」
そうして最初に決めたように、自分達の国では戦争がなかったこと、刀など武器類の使用は禁止されていることや皆と言葉が通じるという点で外国からの拉致などは考えにくいということと、最後に天人なんていなかったということを伝え終えるとその場はしんと沈黙した。
「…あまりうまく説明できないですが、そういう事を踏まえると違う世界なのかな…って。ほら、パラレルワールドとか言いますし」
はは、と付け加えてみるものの重い空気は中々変わらずに誰も口を開こうとしない。
事実は事実だからどうしようもないが、突然こんな話をされてはいそうですかと納得は自分ならできないからよくわかる…が、流石に居た堪れない。
次の言葉を探していると、重い空気を割くようにアッハッハッハッハ!と豪快な笑い声が響き、ビクッと身構えてしまう。
「確かに突飛な話じゃが…わしは信じるぜよ!」
「はぁ!?坂本てめェ今の話のどこに信じる要素があんだよ」
高杉にそう言われてもなお笑う姿をみて、自分で言っといてなんだがこの話を信じるなんて本当にただの馬鹿なんじゃないかと頭の心配をしてしまう。
「確かにぶっ飛んだ話じゃあ。が、もしそれが嘘だとして、今こん二人に何ができる?丸腰で、わしらに囲まれちゅうこん状況を抜け出せるとも思わん」
「まあ確かに。一人は女、一人はこーんなもやしみてぇな腕してる野郎じゃ情報を盗むどころか、まずこの状況を抜け出すことも無理だろうな」
「…誰がもやしですか」
坂本に同調する形で私の腕をまじまじ見る銀時をじとりと睨みながら、一瞬でもただの馬鹿だと頭の心配をした坂本に心の中で謝罪する。
私達を信じるというより、力量差でもし何かあっても抑え込めると踏んでいるのだろう。原作で頭はカラと言われていた印象が強いが、その実かなり頭がきれるのかもしれない。
「となると、この二人の処遇をどうするか…が問題だな。
もしただの虚言だとするならみすみす帰すわけにもいくまい」
「虚言じゃないですー!うちらホントのこと言ってるだけですー!」
「その場合も、ここから出たとして宛はあるのか?」
「…あ」
桂は小さくため息をつき、どうしたものかといった様子で軽く眉間を抑えている。
現時点で私達がスパイだとしても大した情報など握れていないと考えてはいるが、この場所が知られているということがネックで外に出すに出せない。
更に、この話が本当ならば地図を渡して外に出しても意味がないとも考えているんじゃないだろうか。義理堅そうだし、危ないところを助けてもらった意識がある分無下にはできないといったところだろうとあたりをつける。
もしそうなら、何とかこのまま住居をゲット出来る可能性が出てくるのだ。
「それなら、ここに置いてもらうってのはどうでしょう?」
「…ここに?」
「はい。厳密には部屋の中ではなく、その庭なんですけど」
そう言って雪のつもっている庭(という程手入れされていない、空き地みたいな感じだが)を指さした私に ”何言ってんだコイツ” と言いたげな視線を寄こしてきた里奈は許さない。
交渉
(かまくらでも作るのかよ、何て噴き出す銀さんも許さないぞ)
11/0317→17/0607