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”厳密には部屋の中ではなく、その庭なんですけど”
そんな事を言い出したひとみには悪いが、本当何言ってるんだってついまじまじ見てしまった。
ここに置いてもらうくだりは納得できる。ここから出て知らない場所でまったく知らない人に囲まれるより、見知ったキャラ もとい人がいる方が多少なりと安心もできる。
けれど外はこの雪だ。せめて物置でも何でもいいから屋根がある部屋で生活したい。
「私達には乗ってきた車…外にとめているあの乗り物があります。あれは座席も倒せて寝る場所にも困らないし雪もしのげるので、庭さえ貸してもらえれば許可なくこの建物に入らないと約束もできますから作戦を盗み聞きされる心配もないですよ」
心配なら見張りを付けてもらって構いません。 そう言ったひとみにようやく合点がいった。確かに車中泊何て言葉もある通り、車での生活はできなくはない。後部座席を倒せば難なく寝れるし、窓に目隠しすれば車という鍵付きの個室があることによってプライベートもある程度確保できる。バッテリーが気になるところだが、一応冷暖房完備だからある程度の寒さはしのげるだろう。
ひとみ天才かよ…。
「…それならば問題はないと思うが…お前達はどう思う」
ふむ と納得気味に言った桂に、銀時、坂本は二つ返事で了承してくれたが、やはりというか高杉だけはどうにも渋っているようで反応があまりよくはない。
「あの車って奴はスピードも出るんだろ。見たところ外装も硬そうだし見張りをつけたところであれで逃走するって手立てもあるんじゃねぇのか」
「それに関してはタイヤの前後に…そうだな、あれくらいの大きめの石を置いてもらえれば乗り越えるのは難しくなりますよ」
そう言って指さした先には池があったであろう窪みの周りに置かれた大きめの石。あれだけの大きさがあれば重さもあるだろうから助走なしに乗り越えるのは中々苦労しそうだ。
「勿論車の中に武器の類がないか確認してもらって構いません」
そこまで言えば、他の三人に視線で宥められてとうとう高杉が折れる形で庭での生活を勝ち取ることができた。
相手を説き伏せるひとみの頼もしさや、何より暫く身を置ける場所が見つかったことがうれしくて、思わずひとみに飛びついた。
* * * * *
あれからいくつか決まり事を決め、他の攘夷メンバーに顔合わせを兼ねて軽く自己紹介をした。知らない人にうっかりあって斬りかかられても困るわけだが、どうやらここに居候するという話は自己紹介前にすでに広がっていて、ほとんど無駄骨に近かった。(話してる最中部屋の周りにチラチラ人影が見えてたし、こんな時に来客何てそりゃ気になるか)
それから嬉しいことに、生活水として井戸水を。トイレの貸し出しや必要時に火をおこす事の許可が下りた。
飲み水はペットボトルの箱買いが積んであったからしばらくは持ちそうだと思っていたが、やはりそれだけでは水は足りないためとても助かる。
欲を言えば風呂も欲しかったが、どうにもここには使える風呂はないらしい。季節は真冬で水浴びは流石に自殺行為だからお湯で温めたタオルで体を拭くしかないだろう。
高杉以外の三人、特に桂は何かと自分達のことを気にかけてくれているらしく、助けてもらったのに捕虜のような生活でいいのかと聞かれたが、寧ろ良待遇であると伝えれば幾分かほっとした表情を見せた。
着替えがないだろうからとりあえずこの着物を、だとか、冷えるといけないから毛布を、何て差し出してくるものだからつい「おかんか」何て言ったら「おかんじゃない、桂だ」と返ってきて噴き出さざるをえなかった。
「それにしても、ひとみのおかげで何とか住める場所ゲットできてよかったよ。うちだけじゃ間違いなく野垂れ死んでたね」
「あそこで食い下がったらこの先どうなるかわかんなかったからさー。後から考えるとあの場でよく口が回ったよ」
「高杉なんてめっちゃ睨んでたもんね。あれは視線だけで人殺せそう」
「冗談抜きであれは死ぬかと思ったわ」
そんな雑談を交わしながら、これから暫く住居になる車内を住みやすいように整理しつつ、時間も時間だったため買い物袋に入っていたインスタント味噌汁を夕食がわりにとすする。濃い目の味噌が冷えた体に沁みいる。
「冗談と言えば、銀さんのあの発言どう思う」
「どの発言」
「ほら、”こーんなもやしみてぇな腕してる野郎”っての」
「…ああ、あれはちょっとイラッとしたよね。例えるにしてももやしって」
「いや、そう言うことじゃなくって、野郎って言ったこと!」
そう。あの時銀時は ”一人は女、一人はこーんなもやしみてぇな腕してる野郎” と言ったのだ。もやしみたいな腕のところでひとみを見ているわけだから、一人は女はうちを指している。そして、わざわざもう一人と言って更には野郎と来ていることからして…
「もしかして、私男だと思われてる…?」
なんだそれ と言っているひとみだが、実はその容姿は中性的で服装もシンプルなものを好む傾向にある。更に身長も日本人女性の平均値を上回っていて、学生時代は後輩の女の子達にカッコいいと言われているだけあって、自分としてはまあありえない話ではないよな。何て思っている。
当の本人も信じられないと言いつつ、こうなったらバレるまでとことん隠してやる 何て言ってるあたり、結構楽しんでいる様子がうかがえる。
とりあえず、バレるまでひとみが女ということを言わずに生活するゲームの開始と同時に、味噌汁で温まった体が冷えないうちに座席を倒して眠りについた。
* * * * *
寝ている時、周囲の音によりそれが夢に出てくることが多々ある。
実際に電話が鳴っていたら、夢でも電話がかかってくる そんな状態。
現に今もそうだ。起きろと何度も夢の中で言われている。 もう少し寝かせて そう夢の中でいえばふざけるなと返って来るもんだから、今日母さんは機嫌が悪いのかもしれない。口悪いな なんてぼんやり思ったものの、まだ寝足りないとばかりに浮上しかけた意識がまた溶けだそうとした時、突然額に衝撃とそれに伴うビタンという音に思わず飛び起きた。
「いった…!何すんの母さん!!」
「誰がテメェの母親だ」
「?…………………あ」
目の前の母親と思っていた人物を見てたっぷり溜めてからの第一声はとても間抜けなものとなった。
そういえば昨日此処へ来て、何だかんだで暫く居候することになったんだということを思い出す。
「居候している身とは言え、朝っぱらから年頃の女の部屋に怒鳴り込んだ上に暴力なんてどういう教育受けたんだ。って言うか車鍵したはずなのにどうやってドア開けたの」
「居候の癖にこんな時間まで寝こけるたぁ随分太ェ神経の持ち主の様だな。てめェの連れが出てそのままだったんだよ」
「あ゙?」
「あ゙ぁ?」
お互いに睨み合っているのを目撃した銀時が何であんなに仲悪いのと冷や汗を流してたのは後から聞いた話。
というかひとみ、中から開けたなら車のキーで外から閉めて欲しかった。
「っあ゙ー…体バッキバキ…そもそもなんであんたが車のドア開けてんの。鍵が開いてたからって用がなければ来なければいいのに」
「用があったから来てんだろ。好き好んでてめェの顔なんざ拝みにくるかよ。
てめェの連れから飯だから来いって伝言だ」
なぜ高杉がそんな断りそうな伝言を引き受けたのか不思議に思ったが、その手には爪楊枝に刺さったウインナー。
…こいつ、ウインナーで買収されたのか。人に馬鹿だのアホだの言ってたくせに自分もチョロ過ぎだろこのチョロ杉が。何て思っていたら表情に出ていたのか「イラッとした」という理由で破壊力の凄まじいデコピンを食らった。
「〜〜ったいなああああ!何、お前さっきから人の額を楽器と勘違いしてんじゃないの!?洒落にならんくらい痛いんだけど!?」
痛む額を抑えながら吠えれば、はっと厭味ったらしく鼻で笑われる始末。
そうして始まった嫌味の応酬は段々ヒートアップし声量も上がっていく一方で、いよいよ手が出そうになった時、突然何かに口を塞がれた。
「はいはいそこまで。
総督も何ムキになってるんですか」
苦笑しながら自分達を宥める男は高杉よりもがっしりしていて背も高い。口を塞いだいたのはこの男の手らしかった。
二人とも落ち着いてください、一体何が原因なんですか?と聞く男は苦笑しながら口を塞いでいた手をどけた。
「そこのいけ好かない野郎が人の額を打楽器よろしく叩いてきた。あと嫌味がネチネチうるさい。ネチ男が」
「誰がネチ男だ物臭女。口で呼んで起きねぇなら引っぱたいで起こすだろ。嫌なら声かけた時に起きろ」
また始まりそうな口論に苦笑しつつ、そうはさせまいと男はやんわりと仲裁に入る。
その動作から、きっと血の気の多い男ばかりの生活の中でこういった仲裁は慣れているんじゃないだろうかと男の気苦労を思った。
「女性を二度も叩いたことは総督に代わって俺が謝るから許してもらえないか?」
眉を下げながら笑いそう言う男にちょっとときめいたとかどういうことだ。
「お兄さん名前なんだっけ」
「俺?俺は平賀三郎。カラクリ専門で総督の鬼兵隊に所属してる」
「! 三郎…か。仕方ない、ここは爽やかイケメンの三郎に免じてそのネチ男は許す」
大人しく引き下がるのも癪でだったため、最後にネチ男とつけて足してやれば、やはり高杉はイラっとした表情を見せるが流石にこれ以上三郎にとめさせるわけにはいかないと思ったのか何も言い返してはこなかった。
漸く落ち着いた空気にほっと胸を撫で下ろす三郎は改めてひとみが呼んでいたと伝え、高杉を連れて戻っていった。
これは何のフラグですか?
(三郎カッコよ過ぎだろ。どっかのちび総督とは大違いだ)
11/0524→17/0609