ガラス越しに眠る姿を眺め、それが安定していると知ってほっと一息ついた。
「もう大丈夫だそうですよ。このまま安静にしていればすぐ回復するそうです」
すぐ隣で声がしてそちらを見やれば、同じようにガラスの向こうを見ていた男がすっとコーヒーを差し出した。
少しそれを見たあと受けとると、その行動が意外だったのか驚くそぶりをみせつつも微笑んだ…様に見えた。たぶん。
なんとなく居心地の悪さを感じながらも男から視線を外し、受け取ったコーヒーで喉を潤す。
「…悪かったな、胸ぐら掴んじまって」
「いえ、お気になさらず。わたくしも咄嗟のこととは言え、強く握り過ぎてしまいました。…痛みますか?」
気恥かしげに謝れば、逆に腕を掴んだことを謝られる。多少赤くはなっているが痛みもなく、そもそもあの場のことを考えればこちらが謝罪すれど謝罪される側にはならない。
「別に。止めてくれたんだろ、アタシのこと。ならアンタがそんな顔して謝ることじゃねぇよ」
この気不味い空気を打破する方法など知らず、結局二人して押し黙り視線をガラスの向こうに向けた。
「もう遅いですし、一度自宅で休まれてはどうですか?」
「…いい。とりあえず今日はここに泊まって、明日あの子が目覚ましたら帰る。アンタこそ帰った方がいいんじゃないの?仕事だってあんだろ。…付き合わせたアタシが言えた事じゃねぇけど」
「ええ、本日も業務はありますが…まぁ同じ職についている弟もいますし、多少遅れてもなんとかなりますよ」
暫く考える素振りを見せたあと、あまりにしれっと遅刻します宣言をした男が同意を求めるような顔でこちらを見るもんだから、今まであったイメージとのギャップに吹き出してしまった。
「なんだそれ!サブウェイってでかい施設のリーダーがそんな投げやりでいいわけ?」
「たまには息抜きも必要です。それに、いつも何かと世話を焼かされるんです。少しは代わってもらってもバチは当たりませんよ。
…おや、そう言えばわたくしの職業をご存知だったのですね」
そこまで言われてハッとする。
この男の職業を調べたのは仲間で、その理由は先日の礼を言うためだということをすっかり忘れていた。先程謝りはしたものの、結局まだ礼を言えていない。
サブウェイに行ってコイツのとこまで行ったらさらっと礼を言って帰るつもりだったがそれがうまくいかず、現在はこんな形で一緒にいる始末。
チャンスといえばチャンスだが、なんだかんだで物凄く言い出しにくい状況でもある…わけだが。
「どうされました?」
突然黙り込んだアタシを変に思ったのかそう尋ねられ、内心跳ね上がった。
言難い。非常に。
でもここで言わなければこの先言える機会なんて殆どないことも確かで。
「……がと…」
「?」
「…ありがと、助けてくれて。
この間も、今日も。
…………助かった」
結局顔を見ることはできず、顔を背けながらぼそりとそう言ったあと、相手に気づかれない様髪の隙間からチラリと覗けば、今度こそ優しげに微笑む顔が見えた。
不意打ち
(こんな顔もするんだと、)
20130118