• Happy Birthday

※名前固定



はやく、はやく、はやく
もっと早く走れと夜の歌舞伎町を疾走する。
何人かにぶつかり野次が飛ぶがそんなことは気にしていられない。足を止めたら間に合わなくなる。
こんなことなら礼なんて断りゃよかったと、つい出てしまう舌打ちもそのままに過去の自分を恨んだ。

事の始まりは今日の朝、家の中で飼っている猫が隙をついて逃げ出したから探してほしいという依頼で、捕まえてくれたらお礼はいくらでもと言う言葉に反応した新八が俺に有無を言わせる間もなく引き受けてしまい、一日中探し回る破目になった。(今度あいつの眼鏡を予備諸共叩き割ってやろう。)
以前猫になった摩訶不思議経験を活かし、猫が行きそうなところを回って少しでも早く捕まえてさっさと引き渡して帰ろうと思っていたのに誰の陰謀かその猫は全く捕まらず、漸く捕まえたのは太陽が沈む直前だった。

捕まえた猫を依頼主に渡せば泣いて喜び、お礼だと言って夕飯を勧めてきたもんだから神楽がそれに飛びつき、それを宥めながらも金持ちが用意した豪華な食事に釘付けの新八は折角だからよばれて行きましょうよと言い出す始末で、仕方なく今日早く帰ろうとしていた理由の人物に電話をかければ、
「丁度良かった。今友達と居るんだけど、夕飯食べてこうって話してたとこなんだよね」
とバッサリ切り捨てられた。
なにこれ、結局今日早く帰っても誰も居なかったってことか、…泣きそう。
これはもう自棄食いするしかない。折角用意してくれているんだ、滅多に食えない高級料理だって食い尽くしてやる勢いで用意された席に着いた。

…まではよかったものの、主人に酒を振る舞われたもんだから気づけば日付が変わる2時間前。
ほろ酔い気分もさっと醒め、満腹になりうつらうつらとしている神楽を背負い主人に見送られながら豪邸を後にした。

そういえば本格的に寝てしまった神楽をここから近い新八の家で一晩預かると気の利いたことを言った新八を思い出し、眼鏡を割るのは一つだけにしといてやろうと思いながら、街頭のテレビにちらりと目をやれば時刻は既に0時30分前。
此処からならあと10分足らずで家に着くと、ラストスパートをかけるように走る速度を限界まで上げた。


* * * * *


ぜぃぜぃと酷く上がった息と、長距離を全力疾走した為に起こった吐き気を抑えるため、万事屋の下にあるお登勢のババァの店の前で壁に手をつき深呼吸を繰り返す。

「まったく、もう日付が変わるってのにこんな時間までどこほっつき歩いてたんだい」

「うるせェ…これでも…全力で…ッ走ってきたんだクソババァうぇッ」

上がった息で反論したため大分治まってきていた吐き気がこみ上げ、何とも情けないものとなった。

「と、言ってもあの子もさっき帰ってきたばかりみたいだけどねぇ」

ババァはくつくつ笑いながら言う上に、イラつく程にやけていてどうにもならない怒りが込み上げてくるも、突然目の前にずいっと出された物にそれもひっこんだ。

「何だこれ?随分高そうじゃねぇか」

「お前にじゃないよ」

まぁ飲みたいなら二人で飲むんだね。と言われればすっかり毒気も抜かれ、気の抜けた声しか出なかった。

万事屋に明かりがついていることを確認し、帰ったぞーといつもの調子でいえば、おかえりーといつものように返事をしながら出迎えに来てくれる。

「あれ、神楽ちゃんは?」

「あー途中で寝ちまったから新八んちに泊り。
っていうかひとみぃー、普通亭主が帰ってきたら
お帰りなさいあなた!ご飯にする?お風呂にする?それとも」

「いや、そもそも夫婦じゃないし」

何、酔っ払ってんの?とバッサリ切り捨てて、ひとみはすたすたと部屋に戻ってしまう。
ええぇ…全速力で帰ってきたのに何この扱い…
とぼとぼと部屋に入るとコップに水を注ぎ、はいっと手渡してくるその気遣いに、落ち込んだ気分が晴れるのを感じ、我ながら単純だなと苦笑をもらす。

「ああそうだ、もう一つグラスとって」

受け取った水をぐいっと一気に飲み隣に座るひとみに言えば、すぐさま俺が受け取ったものと同じ物を持ってきてくれた。
ちらりと時計を見るとあと1分で日付が変わろうとしている。
素早くもらった酒を二つのグラスに注ぎ、片方をまだ飲むのか…と言いたげな表情をしているひとみに差し出す。

「…いや、うちまだ未成年なんだけど」

「保護者の監督のもとならいんだよそんなもん」

「マダオめ」

そう言いつつ、こちらが引く気がないとわかったのか渋々と酒の入ったグラスを受け取るのを確認し、自分もグラスを持ち軽く打ち付けると同時にタイミングよくテレビから日付が変わったとキャスターが言うもんだから自然と口の端が上がる。

「誕生日おめでとう」

そう一言告げると一瞬ぽかんとし、思い出したようにカレンダーを見る姿に思わず噴き出した。

「これで飲めるだろ?」

くつくつ笑いながら言えば、困ったように、でも嬉しそうにへらりと笑った。

Happy Birthday!
(お前に一番にそう言いたかった。)
20110326