• 貴方は私を知らない

ぎゅうぎゅう詰めの車内から無事脱出すれば真っ先にすることがある。

「おはようございます」

そう笑って言えば、同じように挨拶を返してくれる鉄道員さん。
他の鉄道員とは違った制服にかなりの長身で、人の波が凄くてもすぐ見つけられる。

「気を付けて行ってらっしゃいまし」

挨拶以外にそう返してもらった日にはそれはもう絶好調で、抜き打ちテストも苦手な体育だってスキップする勢いで出来てしまう。


「あんたも一目惚れ相手によくやるね。土日もやってもない部活があるとか言って通ってんだから」

「そりゃあだって1日でも多く話したいって思うでしょ?」

「話すったって挨拶だけじゃん」

「それでも幸せなんですー!」


切ない恋だねー、なんてからかわれたりもするけれど、別にそれでもいいと思っている。
聞けばあの鉄道員さんはギアステーションのサブウェイマスターで、ノボリさんと言うらしい。
バトルサブウェイのラスボスらしく、ポケモンを持っていない私にはあまりかかわりのない人だった。(道理であまり見かけないわけだ)

だから、と言うわけではないけれど、相手が自分の事を知らなくったって、構わない。
まぁ付き合えたらそれは幸せなんだろうけど、無理に告白したりしてその後顔を合わせ辛くなるよりも、今まで通り挨拶程度の言葉を交わせれば、例えそれが業務用の対応でも、それでいいのだ。

貴方が返事を返してくれるだけで、どれ程私の心が温かくなるのか なんて、私だけが知っていればいいの。



「おはようございます!」



貴方は私を知らない
(言葉を交わせればそれだけで幸せ)
20120121