「やあ」
突然、白色の髪の毛の男の子__狛枝くんがそう言いながら、当たり前のようにパラソルの下に入ってきた。
……あまり自分がとっつきやすい方ではないと自負しているからこそ、距離を置いてこない彼にちょっと驚く。
「美澄さんは、みんなと遊ばないの?」
ちょっと答えづらいところを突かれて、どう答えようかと迷いながら、凪いだ瞳を見つめ返す。
「これぐらいが、ちょうどいいから」
「え?」
「……夏って、海に入んなくても感じれるし」
わざわざ話しかけてくれる彼に、日差しも海水も潮風も、髪と肌に良くないし、とは言えなかった。
サングラス越しに、狛枝くんをちらりと見るも、目をすぐにそらす。
「……十分、楽しんでるよ」
足を組み替えながら、手元のグラスを傾けて、彼に見えるように示す。動きにあわせて、氷が擦れて優しい音を立てる。
これは、さっきウサミちゃんが「座ってるのもいいですケド……熱中症には気をつけてくださいね!」と出してくれたものだ。
色鮮やかなトロピカルフルーツと、透き通ったサマードリンクのブルーが涼やかで気分がいいよね。
まさにリゾート気分じゃん。
「……確かにそうかもね」
狛枝は肩をすくめ、隣のデッキチェアに腰掛ける。
「狛枝くんこそ……遊ばなくていいの?」
「今、美澄さんと話してるじゃないか。それに、あそこに交じるのは……なんだか、恐れ多いよ!」
恐れ多い……? ちょっとよくわからない方向に会話の舵が切られた気がして、そっと話題を変える。
「その、ちゃんと日焼け止め、塗ってる?」
サングラス越しに見える彼の肌は、病的な白さだった。地雷系とか、そういうファッションの界隈の女の子は、彼の肌を羨ましがるぐらいかも。
……寧ろ、ちょっと焼けたほうが健康的でいいかもしれない。そこまで思考がたどり着いて、思わず軽く笑ってしまった。
一瞬、驚いたように目を瞬かせた後、目の前の彼もまた笑いをこぼす。
それにほんの少しの間目が奪われた。芸能界にも出入りする私だけど、まれに見るぐらいの美形である彼が笑うと、心臓に悪い。
「……僕なんかのことを心配してくれてるの? 美澄さんは優しいんだね……! でも僕、周りが思うよりは案外丈夫だから大丈夫だよ」
また、自分を下げる方向に話が進んで、もうこの人はそういう人なんだな、と諦めた。
それと同時に、これ以上会話を続けるには、男の子はあんまり興味ない話題かもしれないし、踏み込むのも野暮な気がして、そっと目を閉じた。
私って、ほんと、人と話すの苦手だな……
「……」
波と風の音をBGMに、楽しそうに笑うみんなの声が聞こえてくる。
騒がしいけど、なんだか落ち着く。
それが、……なんだか、近づいてきてる?
「叶ちゃーーーん!!」
沈黙を切り裂くようにやってきたのは、鮮やかな色彩の女の子。
「唯吹たちと一緒に泳ぐっすよ!!」
遠くから走ってきたミオちゃんが、ビーチボールを抱えたまま飛び跳ねるようにして駆け寄ってくる。駆け寄ってくる……なんて、かわいい表現じゃないけれど、そんな感じ。
彼女が着地したところに、砂埃が舞う。
「…………」
「無言で抵抗してもダーメっす! 叶ちゃん、せっかくの海っすよ!? ほら、つま先! 先っちょだけでもいいから!!」
「み、ミオちゃん?」
ぜ、絶対これ、足だけじゃ済まないやつだ……!
それでも、ミオちゃんの期待に満ちた声を聞いて、ほんの少しだけ息をついた。
「……………行く、行くよ」
「やったーー!! 叶ちゃんゲットーー!!」
ミオちゃんが嬉しそうに私の手を取って、笑いかけてくると、心の奥がざわついた。
すると、それを見ていた彼が、口元に笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「美澄さん、さっきはきっぱり嫌って言ってたのに、澪田さんに誘われたら即決するんだね。面白いなぁ」
「……即決はしてないけど」
「じゃあ、僕もご一緒させてもらおうかな」
「べっつに凪斗ちゃんは呼んでないっす!!」
「……まあ、そうだよね。澪田さんがそう言うのも当然か」
狛枝くんは肩をすくめながら、けれどどこか楽しそうに手を降って私を送り出した。
「それじゃあね。美澄さん、楽しんでね」
なんだか、掴みどころがない人だな。
あんなに頭がよく回って、『幸運』なんて才能を持っているのに。