五条くんがやってきた!

※ご都合呪術によって五条(28)と五条(16)が入れ替わる何番煎じな話です。



「「……は?」」


 普段と変わらない、いつも通りの任務だった。

ただひとつ、"五条悟が過去の自分と入れ替わった"という点を除いて。




「……で?大きな爆発音が聞こえて様子を見に行ったらコイツが居た、と?」

「そう…山全体に響くくらい大きな音だったから何事かと思って急いで見に行ったんだけど、悟が居なくて代わりにこの…五条君が居たの。」

「まぁ、原因は分からないけど何かの呪いだろうな。服装や持ち物から考えると若返りじゃなくて過去から来た五条、で間違いなさそうだ」

「でもそんなことってあるのかなぁ。聞いた事ないし…ていうかそしたら大人の悟は過去にいるってこと?」

「そうなるだろうな。一応、過去に似た事例が無いか調べてもらってる」

「ありがとう硝子…!本当に助かる」

 目の下に立派な隈をこさえた硝子は私の同期だ。そして五条悟もまた私の同期であるが、高専を卒業して付き合い始めてからは恋人という肩書きが加わった。
 そんな私の同期であり恋人でもある悟と任務に出たのが数時間前。
言わずもがな最強の異名を持つ悟と、1級術師としてやっている私が同じ任務に宛てがわれる事など滅多になくて、不思議に思い聞いてみれば呪物の回収とそれが保管されている古神社の調査だと言う。


『前情報が殆ど集まらなくて、どんな呪いが込められているのか分からないんです。神社の方も今は管理者が居らず殆ど廃神社の様で…』

『なるほどねぇ。まぁ僕としては名前との任務、しかも補助監が伊地知なんて気楽で良いけどさ。チャチャッと終わして帰ろー!』

『悟、油断は禁物だよ』

『大丈夫大丈夫、何かあっても僕がパーッと祓っちゃうから』

『そうやって自分の強さを過信しすぎるといつか痛い目見るからね』

『僕に痛い目見せられるモンなら見せて欲しいよ』

 そんな数時間前の会話がまさか現実になるなんて思いもよらなかった。
不幸中の幸いは同行の補助監督が伊地知だったことだろう。

 悟は呪術界において最も重要な人物の一人だ。
悟に何かあったと知れ渡れば混乱は不可避…と言っても過去の悟と入れ替わっただけなのだからさして問題では無い気もするけれど、とにかく話が広がる前に解決出来るならそれに越したことは無い。

悟…もとい五条君は混乱しているようではあったが、その眼のおかげで私の中に流れる呪力から『私は同期の苗字名前でありこの世界は五条君が暮らす時代から約10年後』ということを受け入れ大人しく着いて来てくれた。

車で待機していた伊地知を見て何も言わないあたり、伊地知が入学する以前、つまり1年か2年の頃の五条君だろうということは予想出来た。

ちなみに五条君を見た伊地知はと言うと震えていたのだが、学生時代は今以上に悟に弄られていたのでちょっとしたトラウマになっているのかもしれない。後輩イジりは程々にしておく様に戻る前に言っておく必要がありそうだ。


 そんなこんなで高専に戻った私達は医務室に直行し現在に至る。
医務室には私と硝子、それから処置台に腰を掛けて私達を物珍しそうに観察する五条君。
伊地知は学長に報告する為に学長室へと走っていった為不在だ。


「……なぁ、オマエら今幾つ?」

「ガキの五条君にひとつ教えといてやる。レディの歳は聞くもんじゃないぞ。」

「はぁ?どこにレディがいんだよ」

「うっわぁ、この失礼な感じ懐かしい。私達は28だよ。さ…五条君は?」

「16」

「2年生?1年生?」

「2年なったばっか」

「そっかぁ。ふふ、なんか、高専の頃から変わらないって思ってたけどこうして見るとやっぱり子供だね」

「今も昔もクソガキだろ」

「誰がガキだよ!」

「そんな事より一応体に何も起きてないか診るぞ。上脱げ」

こんなやり取りも今では懐かしい。
減らず口で意地っ張りで負けず嫌いで、硝子や私、それからもう1人居た、私達の同期で悟の親友だった夏油君とよく言い合いをしていた。

夏油君が居なくなって色々と変わった悟が誰かと言い争う姿はもうずっと見ていない。

「…何笑ってんだよ」

「あ、ごめん。なんか懐かしいなぁ、って」

「懐かしい?」

「うん。こういう言い争いとか口が悪い五条君とか懐かしい」

「ふーん。今の俺ってどんな感じ?」

「どんな、かぁ……あ!五条君ね、先生やってるんだよ!何気にちゃんと先生してるし昔より口調とか雰囲気とか丸くなったかな!」

「俺センコーやってんの?想像できねー」

「確かにね…まさか五条君が先生やってるとか思いもしなかったよね」

「俺が先生とかモテまくってヤバそー。あ、今の俺の写真ねぇの?」

「あるぞー。今のお前はコレだ」

「どれどれー……ってハァ?!この不審者が俺!?」

「く、ははっ、そう、この不審者が大人になった五条だよ」

「あっはは!五条君から見ても不審者なんだ」

「マジ有り得ねぇ!普通にグラサンで良いだろ…」

「えー、でも私この悟好きだけどなぁ」

「そういやさっきも気になったんだけどお前俺の事苗字じゃなくて下の名前で呼んでんの?」

「え?!あ、そう、ちょっとね、色々あって呼び方変えたんだ」

 学生時代は"五条君"と苗字呼びだったのが付き合ったことをきっかけに下の名前で呼び始めて、今やすっかり定着した"悟"呼び。

 16歳の五条君が暮らす時代では私達はまだ同期というだけの関係で、私は"五条君ちょっと気になるなー"なんて思ってた頃だ。
五条君は私に興味があるようには思えなかったし、何なら一般人の彼女だって居た。
元の時代に戻る時ここでの記憶が残るのか消えるのか分からないが、あまり五条君の人生に関与する出来事は伝えない方が良い気がした。

まぁ、未来で先生をしてることはもう言っちゃたけど。


「何難しい顔してんの?てかあんま裸ジロジロ見ないでくんない?」

「え?あぁ、ごめん考え事してた。ていうか、細いねぇ。今と比べたら華奢じゃん!」

「…お前、今の俺の裸見たことあんの?」

「ん?!いや、ほら、今の悟って結構体のラインが出る服を着てるんだ!だから何となく服の上からでも分かるだけで、その、見た事はないよ?!」

「ふーん。写真見た限りむしろダボッとした服着てたけど」

「ああああれは仕事着だから!私服は違うの!」

慌てて取り繕う私を見て笑った硝子が『馬鹿』と口パクをして、何かを察したのかにやりと笑った五条君が口を開いた時、医務室のドアが勢いよく開いた。


「うっわ!夜蛾セン!?老けたなーあ、今は学長?」

「そうだ。…全く、厄介事を持ち込むのはいつだってお前だな。硝子、悟の体に異常は?」

「無いです。健康そのもの。放っておけばそのうち戻るんじゃないですか」

「そういう訳にもいかないだろう。手の空いてる補助監督に過去の文献や資料を調べさせているが、今のところ何の情報も無い。言わば前例が無い事態だ。解呪方法や呪いの発動条件、とにかく分からないことが多すぎる。手がかりが見つかるまで悟は1級以上の術師の監視下に置くことにした」

「はぁ?めんどくせー。別に俺強ぇんだし1人でも大丈夫っしょ。適当に寮の空き部屋貸してくださいよー。あ、てか俺が使ってた部屋って今誰か使ってんの?」

「話を最後まで聞け悟。…監視下に置くことにしたと言っても名前の監視下だ。それならお前も安心だろう」

「え、私が監視するって、でもどこで…」

「もちろんお前の家だ。問題ないだろう?」

「名前の家ぇ?!問題大アリだろ!つーかお前1級?!あんなクソ雑魚なのに1級なれたのかよ!」

「誰かさんが雑魚雑魚毎日煽ってくれたおかげで無事1級になれましたよ!てか学長!私の家に連れて帰れってことですよね!?いくらその…アレだからってそれはちょっと…あ、七海とかじゃダメなんですか?」

「七海は今長期の任務が入ってる。悟に構ってる暇が無い。今のところ纏まった予定が無く悟と近しい関係の1級術師はお前しか居ない。とにかく!これも任務のひとつだと思って引き受けてくれ。」




「んで、ココがお前の家?ボロアパート想像してたけど案外良いとこ住んでんじゃん」

「そりゃ腐っても1級ですからねー。五条君も知っての通りそこそこお給料は貰ってますから」

「うっわ生意気」

「どっちが。ほら、入るよ」


 学長に押し切られた私は結局五条君を連れて帰る事になり、必要最低限の生活用品と食材を調達して帰宅した。

私が住むのは高専からさほど遠くない駅近のマンションだ。
五条君が言う通り、見た目から"良いとこ"だと分かる外観の高級マンションは悟と2人で住んでいる。
私の給料でもギリギリ住めないことはないが、余裕の無い暮らしになってしまうくらいのお家賃だ。
立地、セキュリティ共にここ以上の物件が見付からなかった為に選んだマンションだったが私は結構気に入っている。


「さ、どうぞ入って」

「お邪魔しまーす…」

「ふふ、緊張してる?」

「は?してねーし!」

「またまたぁ。まさか五条君、女の子の家上がるの初めて?」

「うるせーな。つか今のお前は女の子って歳じゃねーだろ」

「もう!失礼なんだから!可愛くない!」

「可愛くなくて結構ですー」

んべっ、と舌を出して手をヒラヒラと振り、ソファにどかりと腰を下ろす。その仕草が懐かしくて思わず笑ってしまえば、むっとした表情で睨まれてしまった。

「…何笑ってんだよ」

「ごめんごめん。懐かしくって。五条君それよくやってたなぁって」

またガキ扱いかよ、と唇を尖らせた五条君に飲み物とお菓子を出してあげて、高専時代の話やこの10年ちょっとで飛躍的な進化を遂げた携帯電話の話、五条君が好きな女性芸能人が結婚したことなどを話していればあっという間に時間が過ぎていった。

 夕飯を準備する間にお風呂に入ってくるよう伝えれば、気怠げに返事をして先程購入したばかりの下着を片手にお風呂場へ向かって行った。

そういえばお風呂の場所教えてない、とキッチンを出たが、自力で辿り着いたようでガラリと浴室を開ける音が聞こえてきた。
シャワーの流れる音を確認してから少し前に買って卸していなかった悟の新品のスウェットを持って脱衣場へ向かう。

ちょうど新品があって良かった、なんて呑気に思っていたこのスウェットのせいで一波乱起きるだなんて、この時は思いもしなかった。




 お米の炊ける良い匂いが炊飯器から漂ってきた頃、ドスドスと無遠慮に廊下を踏み鳴らす音が聞こえてきた。
次いで大きな音を立てて開かれたリビングのドアの先には不機嫌オーラをこれでもかという程醸し出す五条君が立っている。

「五条君?なんで怒ってるの?」

「お前さ、この家男と暮らしてんだろ」

「え、」

「風呂場、男モンのシャンプーとかシェーバーとかあるし、このスウェットもお前のじゃねーだろ。俺でさえ丈余るんだからお前の物なワケねぇよな」

 ダボついたズボンの裾にもたついているトップスの袖。昔からデカいなぁって思ってたけど、こうして見るとこの頃の五条君はそんなに大きくない…いや、今の悟が大きすぎるだけか。

「なぁ、話聞いてる?」

「あ、ごめん…そう。彼氏と同棲してるの。…もしかして、スウェット嫌だった?」

「はぁ?」

「いや、顔も知らない人の服なんか着たくねーよ!的なことかなと思って…あ!でもそれ新品だから安心して!」

 顔も知らない人どころか、そのスウェットは未来の自分の服だから安心して欲しい。
何ならシャンプーもシェーバーも全部貴方の物ですよ、と言いたくなったがぐっと堪えた。

「そうじゃねーよ!…てか顔も知らない人ってことは俺が知らねぇ奴?」

「え?!あー、それは言葉の綾というか何と言うか……知ってる人だよ」

「じゃあ術師?」

「……うん」

「…ふーん。強い?」

「うん」

「俺より?」

「強いね」

「ハァ?俺より強い術師とかそんな奴いるかよ」

「未来のお楽しみだよ。あと10年したら…いや、あと2年もしたら私が誰と付き合ってるのかきっと分かるよ。」

「……傑?」

「違う違う、夏油君じゃないよ」

「違ぇの?傑以外思い付かないんだけど」

「まぁまぁ、それは良いからさ、お腹空いてない?ハンバーグ作ってたんだけど、誰かさんのせいで中断しちゃったからまだ完成してないの。
手伝ってくれたら食後にとっておきのプリン出してあげるけど…」

「良くねーよ、はぐらかすな」

「もう…じゃあこの話の続きはご飯出来たらまたしよう?」

「絶対だぞ」

「ハイハイお約束。じゃあ五条君はこれを──」




「…個性的な形のハンバーグだね」

「うっせ。問題は味だろ」

「味は間違いないもん」

「どうだか」

 五条君に形成を任せた結果、随分と不格好になってしまったハンバーグ達をテーブルに運びながら小気味良いテンポで交わされていく会話は心地好く、私まで高専時代に戻ったような気になってくる。

ダイニングテーブルに向かい合って座り、いただきます、と手を合わせようとしたところで五条君が口を開いた。

「さーてメシも出来た事だし約束通りさっきの話の続きを…てか箸無くね?」

「わ、本当だ。取ってきて」

「どこ?」

「えぇ?いつものとこ…あ、」

やってしまった、と気付いたが時すでに遅く、聞こえていない事を祈りながら恐る恐る顔を上げてみれば五条君はしっかりと私を見ている。

勘の良い五条君の事だから、大体のことは察しが付いてしまった筈だ。


「……もしかしてさぁ、お前と同棲してんのって俺?」

「いやぁ……えっと…」

「え、マジ?」

「……マジ…」

「は、俺とお前って未来で付き合ってんの?え、てかさっき2年後には分かるみたいな事言ってたけど2年後に俺達付き合うワケ?」

「そう…そうなんだけど…いいのかなぁ、こんなこと五条君に言っちゃって…何か未来に影響とか無いのかな」

「平気じゃね?多分」

「適当だなぁ…」

「んなことよりお前って傑が好きなんじゃねぇの?」

「だから、さっきから何で夏油君の名前が出てくるのよ。私、夏油君のことそういう意味で好きだった事ないよ」

「は?嘘だろ?だってお前傑と話してる時めちゃくちゃ楽しそうじゃん。俺と話す時は喧嘩腰なのに」

「喧嘩腰では無いよ!ていうか、それは五条君が嫌味言ってきたり揶揄ってくるから私もそういう態度になっちゃってただけ!夏油君はそういうことしないから普通に喋ってただけだよ」

「何だよそれ…てっきり傑が好きなんだと思ってたから俺適当な女と付き合ったしさぁ、」

「あー、あったね。1年の終わりかけくらいに一瞬付き合ってたあの子…え。てか五条君ってその頃から私の事好きだったの?」

「…うるせー」

「んもー、照れちゃって可愛いなぁ」

「照れてねぇよ!つかそろそろメシ食わねーと冷める!」

話を変えるように箸どこだよ、と言いながらキッチンに歩いていく五条君の耳が少し赤い気がして、五条君は子供で私の恋人である"大人の悟"では無いと分かっていながら不覚にもときめいてしまった。




 食事を終えたあとに待っていたのは、五条君はどこで寝るのか、という問題だった。

悟と2人暮らしのこの家には来客用の布団が無い。一組くらい用意しておかなきゃね、と言いながら結局買わないままだった。

 ソファで寝る、と五条君は言ったけど、リビングにあるソファでは上背のある五条君が寝るにはかなり窮屈だ。

私がソファで寝ると言っても納得してくれず、結局同じベッドで寝る、という結論に至った。

悟のサイズに合わせて買ったベッドは縦にも横にも広く、1人で眠るには寂しいくらいだ。
広、と呟いた五条君は左端に寝転がり、『今の悟は身長190を超える大男だからね』と軽口を叩き緊張していることを気取られない様に振る舞う私は右端に寝転んだ。

 おやすみ、と言い合って電気を消してから1時間が経とうとしているのに、私は全く眠れそうに無い。
目を瞑って眠る努力をしてみても、暗く静まり返った室内では五条君の吐息がやたら耳について意識してしまう。

暗闇に慣れてきた目でチラ、と五条君の方を見遣ればこちらに背を向けてすぅすぅと規則正しく寝息を立てている。

五条君が寝たことにほっと安心する半面、こんなにあっさり眠られてしまったことに寂しさを感じている自分に気付いてハッとした。

──寂しいだなんてどうかしている。今ここにいるのは五条君で、まだ16の子供だ。
間違いが起きなくて良かった、と安堵するべきだ。

 お茶を飲んで気持ちを切り替えて、さっさと寝よう。
キッチンへ向かう為にベッドから起き上がると、左端からぎし、と音が鳴った。


「…寝れねーの?」

「あ、起こしちゃった?ごめん」

「起きてたから平気」

「嘘、すやすや寝息聞こえてたよ」

「それただの呼吸音」

「枕変わると寝れないタイプだっけ」

「違ぇよバカ、お前マジで鈍すぎだろ」

「はぁ?」

「……このベッドってさ、お前と未来の俺が寝てるんだろ?」

「そうだけど」

「つーことはさ、このベッドでシてるって事だよな?」

「…っ、ちょっと何考えてるの!」

 こちらを向いて寝転がっていた五条君がのそりと大きな体を持ち上げベッドに座った。
 いくら暗闇に目が慣れたと言っても詳細な所までは見えないが、それでも五条君が欲情していることは見てとれた。


「なぁ…駄目?」

「だ、駄目だよ!」

「何で?俺達付き合ってんのに」

「付き合ってるのは私と悟であって、五条君と私は付き合ってない、から、えっと、あの、そういうのは元の時代に戻ってからちゃんと順序を守って、」

「は、相変わらず真面目だな。でもごめん、やっぱ無理」

ベッドが軋む音がして、声を出す間も無く私はベッドに押し倒されていた。

拒絶しなくてはいけないのに五条君を受け入れようとしている自分がいる。
葛藤する時間も充分に与えられないまま五条君のあどけなさの残る顔が近付いてきて、キスされる。そう思った瞬間、ボン!と派手な音が室内に鳴り響き、反射的に目を瞑った。
慌てて目を開くと、目の前に居たのは私を押し倒していた五条君ではなく悟だった。

「…オマエ、何してんの?」

「こっちのセリフなんだけど!悟、え、悟だよね?」

「そうだけど。ねぇ、そんなことよりこれ何?なんでこんな体勢なの?」

「は、あー…えっと…」

 威圧的な雰囲気から悟の機嫌がよろしく無いことは充分に伝わってくる。
元に戻ったことを喜ぶ暇もなく大雑把に事のあらましを説明すれば、予想通り悟も過去に行っていたようだった。


「…で、過去の僕に押し倒された、と」

「うっ…」

「図星かよ。ったく、我ながらクソガキだな。何もされてない?つーかオマエも簡単に押し倒されてんなよ」

 溜め息を吐きながら首に顔を埋めた悟の髪が鼻先を掠め、擽ったさに身を捩ると、首筋に舌が這わされる感覚がして身体が跳ねた。

「未遂だから良かったけど。過去の自分とはいえ他の男に抱かれるとか想像しただけで無理。殺しちゃうかも」

「殺しちゃうかもって自分だよ?過去の悟殺しちゃったら今の悟も居なくなっちゃうじゃん」

「そうだけどー。じゃあ半殺し」

「物騒だなぁ…まぁほら、結果的に何も無かったんだしこうして戻れたんだから良いじゃん!」

「オマエのその楽観的な所、心配になるよ」

「てかそろそろ退いて。重くて身動き取れない」

「何言ってんの。このままヤるけど」

「はぁ?!やだよ!退いて!」

「だーめ。簡単に押し倒されたお前へのお仕置き」

「いや、違うの!抵抗するつもりだったし押し倒されたのも不可抗力というか、いくら子供とは言え悟だよ!?今の私でも全然太刀打ち出来ないくらいあの頃だって強かったんだし普通に無理だって!」

「でも満更でもない顔してたよね?」

「してない!良いから退いて!」

「無理。お仕置き兼、戻れたお祝いってことで」

 どうやら私の願いなど聞き入れる気が無いらしい悟はアイマスクに指をかけ取り払った。
光を遮断する黒い布の下から現れた綺麗な顔にはもう、あどけなさは残っていない。


 どうやって解呪したのか、とか過去に行っている間悟は何をしていたのか、とか聞きたいことは山程あるのに、既にジャケットを脱ぎ捨てたのを見て、明日の朝まで話は聞けないな。と諦め大人しく身を任せるのだった。

もう二度と訳の分からない呪具の回収は引き受けない、と心に誓って。


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