戦闘力は申し分ないがブレーキがイカれて使い物にならない諜報員が廃棄処分されるらしい。しかもそれは件の研究所の生き残り。その噂を聞きつけたスパンダムは、使えるコネと権力を盛大に使い、廃棄処分される間近であった諜報員___No.1290を手に入れたのだが、早速ひとつの問題にぶち当たっていた。
「お前、数字以外になんかねぇのか。任務にも行ってたんだろ」
「個体は数字で判断できます。その他の特別な名前は特に必要ないかと」
名前というものが存在しない物にスパンダムはため息を吐いた。任務に行かせるのであれば偽名ぐらい与えておけ、と言いそうになった言葉を飲み込む。いずれ偉くなるとはいえ、今の地位では首が飛んでしまう可能性があるのだ。
一応、識別番号1290というラベルは与えられてはいるものの、さすがにそう呼ぶのは憚られる。呼びにくいのもそうだが、自分の手元に置いて護衛もさせるのだ。人を数字で呼んでいる、というのはいくらなんでもイメージがよろしくない。
自分よりも随分と低い位置にあるつむじを見下ろしながらガリガリと頭を搔くと、スパンダムは2度目のため息をついた。
「あー……じゃあ適当にツキノだツキノ。お前今日からツキノな」
「なぜ名前を?番号だけでも識別はできるはずですが」
「そりゃお前、おれの手元に置くんだ。数字で呼んでるなんざおれのイメージが悪くなんだよ」
「なるほど」
名前が無いなどというのだから自分がつける他ないが深く考えるのもめんどくさい。だから識別番号1290から適当にとってツキノ。名前を付けるだなんてファンクフリード以来だろうか。それでもそれが気に入ったのか、1290___ツキノが先程とは違い、わずかに目に光を灯してこちらを見上げている。
「……ご命令を、スパンダムさん。あなたが望む活躍をお約束します」
「よろしく頼むぜ、ツキノ」
左右色の違う目を細め、歪に笑う目の前の兵器にスパンダムも笑い返す。
これから、自分の出生街道の始まるのだ。
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