10月 旬を味わう

10月になると義勇さんの仕事もようやく落ち着いて、久々にゆっくりと時間が取れた週末。どこかに出かけるよりものんびり過ごしたいという義勇さんの要望に応えて夕飯でも作ろうと駅前のスーパーに二人揃って出かけた。

「焼き芋かぁ…」

お店の出入り口に置かれてある焼き芋売り場がふと目に止まった。もうそんな時期なんだ。最近はこういうところで売ってる焼き芋が結構おいしいって聞くけれどどうなんだろう。焼き芋を見つめながら考え込む私の視線に気が付いたのか、義勇さんが帰りによるか?と尋ねてくれたので、私は力強く頷いた。

夕食の材料を買い込んで焼き芋売り場にやってくると、ちょうど焼き上がりの時間のようで数人の列が出来ていた。その列の一番後ろに並ぶと、列のほとんどが女性の中、前の人が一人男性なことに気がついた。金色の髪に毛先が赤い、とても派手な髪の色だ。男の人が一人で並ぶなんて珍しい。隣の義勇さんはこんなにも興味なさげだというのに。

店員さんは慣れた手つきで列を捌いていき、あっという間に前のお兄さんの順番になった。

「今残っている芋を全部いただけないだろうか!」
「え?!」

その言葉に思わず私は声をあげてしまった。すると気まずそうな顔をする店員さんが前のお兄さんと私を交互に見つめ、お兄さんがゆっくりとこちらに振り返った。

「ああ、すまない!まだ後ろに並んでいたのだな」
「す、すみません…」
「俺は残りの芋を全部買い占めるから、よければ先に買ってくれ」

えっそうなの?と驚く店員さんを他所にお兄さんは元気はつらつとそう言った。幸い私たちの後ろに並んでいる人はなく、私はお兄さんのお言葉に甘え焼き芋を一つ買うと、義勇さんと一緒にそそくさとスーパーを後にした。

熱いうちに食べた方がいいんじゃないかと義勇さんが言ってくれたので、途中にある公園のベンチに座って焼き芋を食べることにした。

「うーん、美味しい!」

熱々の焼き芋を一口頬張ると、口の中いっぱい優しい甘さが広がる。あのお兄さんが全部買い占めたくなる気持ちもわかる気がする。想像以上のおいしさに舌鼓を打つと、隣に座っていた義勇さんがそんなにもかと少し驚いていた。

「義勇さんも食べる?」

半分に割った焼き芋のまだ口をつけていない方を義勇さんに差し出すと、義勇さんは何を思ったのか反対の手首をぐいっと掴んで引き寄せ、そのまま一口焼き芋を咀嚼した。

「…甘いな」

無造作に束ねた義勇さんの髪が私の頬を掠めるくらいに突然近づいたその距離に、自分でもわかるくらいに頬に熱が集まってくるのがわかった。もう一口をねだる義勇さんに心臓が耐えきれず、私は勢いよくベンチから立ち上がった。

「や、やっぱり、帰る」

そそくさとベンチを後にする私に義勇さんはどうしたんだと呑気に頭の上にはてなマークを浮かべていたけれど、悪いのは義勇さんの方なんだから。赤くなった頬を悟られないように少し俯いて、手の中の焼き芋が冷めないようにと早歩きで帰り道を急いだのだった。


(211006)