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「気を付けてね。絶対怪我しないで帰ってきてね。無茶したらダメだからね。背後には、」
「だああうっせーな!俺のこと信じて待ってろや!」
「信じてるよ!信じてるけど不安だし、やっぱり危ないし、それに」
「あーあーもうそれ以上聞かねえ。じゃあ行ってくる」
「あっまって勝己くん!」
甘い夜を過ごしたのはもう数日前の話になるわけだけど、やっと勝己くんと付き合うようになって遠慮というものがなくなってきた私はヒーローを彼氏にすることの怖さを知った。いつ死んでもおかしくないような現場に率先して迎え撃つその仕事は、本当に命と引き換えだ。だからこれまで以上にいってらっしゃいがとても嫌になった。
「みのり、」
「な、っんん、〜〜か、つ、んんっ…ぷはぁ、な、」
「帰ってきたら続きしてやっから、ちゃんと家で待ってろ」
「っっ…ずるい、」
「いってくる」
「……いってらっしゃい」
私は勝己くんと付き合ってから我儘になったのかもしれない。パタリと閉まった扉をじっと見つめ彼の名残を感じる唇を指でなぞった。
□
「みのり!こっち!」
「やっちゃん、久しぶり!」
今日は久しぶりに中学時代の友人と会う約束をしていた。お互いに東京に出ていることを知っていたから会う約束をしていたものの、私の魔の半年間があったおかげでその約束がなかなか実行されなかったのだ。
「でも本当に急に連絡が取れなくなったときはひやひやしたよ〜」
「本当にごめんねっ私も生きることにピンチを感じていて余裕が無くて…」
「まあその辺も詳しく聞かせてよ!あ、ここ入ろう!」
おすすめされたお店はとってもかわいい内装で、いかにもインスタ映えしそうなお店だった。曰くやっちゃんはインスタグラマー、らしい。インスタやってないと伝えればすっごい驚かれてしまったけどやっぱりこのご時世、みんなそうしたSNSは利用しているようだった。
「そういえば爆豪っていたじゃん?私2年のころ同じクラスだったんだけど、あの粗相悪そうな感じの学年トップの成績のやつ!」
「あ、う、うん。覚えてるよ」
「爆豪がさ、今や世でも人気のヒーローになりつつあるわけですよ!」
「へ、へ〜…ニュースでたまに見るよね」
「そう!その爆豪が最近インスタでめっちゃ匂わせしてるって話知ってる?」
「に、匂わせ?」
そもそも匂わせという言葉の意図すら分かっていない私にやっちゃんは1から丁寧に説明してくれた。どうやら【女性にも人気の爆豪勝己が】【彼女がいることも事務所を通して公開していないのに】【彼女と同棲しているっぽい写真をインスタに掲載している】らしい。
そもそもヒーローって彼女がいたらそのことを公表するの?と聞いたら最近はヒーローもアイドル的人気があるからそこ厳しく管理してる事務所もあるのよ!と言われて思わず開いた口が塞がらなかった。
「みて!これ!洗濯完了ってそれだけだけどこれ!絶対女物混ざってる!」
「っ!?な、」
「あとこれ!洗い物完了ってこれ!マグカップ2つ!洗ってる!」
「!?!?!?」
「まず爆豪が更新するSNSって何故か家事の報告日記みたいになってるのが本当にじわるんだけど、それにも訳があってね!なんか前に事務所総出のイベントがあってその時に1年アカウント持ってるのに更新しないことを怒られて今日したことだけでもいいから呟けって言われたからやってるらしいんだけど、それにしたってここ数ヶ月こんな匂わせを見せつけられて私の友達の爆豪ファンの女子は悲鳴を上げてるわけよ。」
「……そ、そうなんだ…。やっちゃん、今その写真って見れるの…?」
「見れるよ!ほら、これ。」
見てみるとそこには明らかに自分のキャミソールや日ごろ使っているマグカップが写っていた。確かに一緒に居るときにたまにシャッター音がするときはあった。爆豪くんって料理とか写真撮る趣味あるんだなとかそれくらいにしか考えていなかったので驚きを隠せない。
「こ、これって何人くらいが見てるの…?」
「えーどうだろ。爆豪って雄英出てるからまじで人気ヒーローだからフォロワーは180万人だけどもっと見られてるんじゃない?」
「……ひゃくはちじゅう、まん、」
「…みのり?どうかした?」
「あ、あ、の…もし爆豪くんが彼女いるってばれたら、どうなるんだろ…」
「そりゃ〜叩かれるっしょ!女のファンは怖いよ!」
180万人に叩かれたら、腫れが引くことはなくなってずっとビンタされた跡が顔に残るんじゃないだろうか……私は想像するだけで恐ろしくて仕方なかった。