「そろそろ行くぞ」



奴らの食事が終わるのを待っている間、俺は手持ちの煙草を吸い尽くした。

車の扉を開けて、外に出ると濃い血のにおいが鼻腔を掠めた。慣れていても積極的に嗅ぎたいにおいではない。





「、、いやぁ、この様子じゃ足りなかったかな?」



後頭部を掻きながら太宰は困ったように人魚に笑いかけた。
水面を見れば肉片らしきものは一切浮いていない。


「いえ太宰様。久しぶりに十分な食事を摂ることが出来ました。ありがとうございます」


心なしか人魚の肌の血色が良くなっている気がする。
あまり気づきたく無かった事実だ。




「それは良かった」


「、勿体ぶってねぇでさっさと終わらせるぞ太宰」


「ふふ、そうしましょう」




舌舐めずりをしたそいつはジッと俺たちを見つめた。
この港の物騒な怪物。食事で満足させようとも、これから俺たちが言う言葉によっては殺し合いになることも否めない。



ーーーそれに備えて、車の中で銃に銃弾を補充し。水中爆弾も外套のポケットにしまい込んだのだ。






「単刀直入に言わせて貰うが、近々横浜の海域はポートマフィアが独占的に仕切らせて貰うことになった」


今の俺の言い方で、こいつらは納得するだろうか。する訳がない。黒い瞳を俺から太宰に移したそいつは笑みを浮かべながら何も言わずに目の前を行ったり来たり泳いでいる。



「もちろん、君達人魚にはもっと美しく広い場所を用意する。ーーと、首領も仰っているよ」



あっけらかんとしてどう?と人魚に問いかけた太宰は日当たりがいい場所のがいいかい?とまで聞き始めている。


「広くて綺麗な海なんて、素晴らしい話ですわ。ここのように人目につかない所でしたら尚更、」


「人目がつかないといえば、海外の無人島辺りはどうだい?」


「それは遠すぎますわ、それに食事はどうするんです?」




何かにつけて、人魚は食いさがる。
太宰の話の掛け合いには乗るが、ここを立ち退く気など更々ないに決まっている。立ち退きに応じなければ殺すまで。

そんなこと、へらへらと喋っている太宰も分かっている。




「んーと、じゃあ「でも少し失礼ではありませんか」




ピタリと泳ぐのを止めた人魚が太宰の言葉を遮断した。



「私達人魚は、ポートマフィアの息がかかる前からこの港を住処としていました」



黒い目は瞬きすらしない。




「突然、現れたポートマフィアは私達人魚の生活を保障する変りにこの港を領地にしたいと懇願した。それは私達にとっても利益のある話でした。人目を避けて生きている私達が狩りをするのは簡単な事ではありませんからね」



「あの時だって、そんな簡単に解決する話では無かったと聞いてるが」



「勿論ですよ、中原様。いくら都合のいい話と云えど私達人魚は誇り高く神聖な生き物です。それはもう醜い抗争が始まりましたわ」


流れなくていい血が流れました。
私達も、ポートマフィアも同様に多くの仲間を失ったのです。


波が壁にぶつかる音が妙に大きく聞こえた。

ポケットに突っ込んでいた手は無意識に水中爆弾を握っていた。








「そんな無意味な抗争、好ましくないのです」






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