そして伝説が始まった




物心付いた時から、ヒーローに強烈に憧れた。いや、ヒーローに憧れた私のヒーローに憧れていた。
これは、私がヒーローになる為の第一歩を踏み出す奮闘記だ。


「どうしよかっちゃん…絶対落ちた」
「馬鹿か、ルール聞いてなかったんかテメェは。いいから開けるぞ」
「待って!心の準備が出来てからせーので開けよ」
「めんどくせぇな」


目の前には2通の封筒。雄英高校からの合格通知だ。
私は試験当日あろうことか開幕0ポイント敵にMPを全て使ってしまいそのまま何も出来ず試験終了。まさかの得意な戦闘試験で0ポイントという前代未聞の成績で試験を終えたのだった。


「てか開幕MP枯らして後の時間何してたんだよ」
「…空飛んで危なそうな人の救助」
「ばっかじゃねーのかテメェは!敵に塩送ってどうすんだよバカえお!」
「うっ、メッソウモアリマセン」


そう、私の個性は魔法。火を出したり氷を出したり、回復もバリアも何でもござれ。なんだけれどいわゆるMP制度ですぐ燃料切れを起こしてしまう。
魔法を使えるという一見勝ち組強固性でも、使える回数が制限されていたら一気にかっちゃんの言うところのモブ個性だ。
ご飯食べたり睡眠取ったりしたらある程度は回復するんだけど、試験中に何か食べる訳にも、ましてや寝る時間なんてある訳もなく、唯一MPを使用しない箒で空を飛べるって言う強みを生かした行動のつもりだったんだけど。そもそもポイントを取らないとどうにもならなかったのだ。後悔しても後の祭りである。


「うーかっちゃん余裕そう」
「たりめーだろ。70ポイントくらい取ったし俺が落ちる訳ねぇ」
「才能マンうざ!あー試験の時より緊張する」


絶対落ちているとわかっていてもこういうのは緊張するし、見たくないものだ。もしかしたら、もしかしたらと思ってすがってしまう。
かっちゃんのベッドの上でお気に入りの抱き枕を抱えながらうだうだ言っている私を冷たくあしらうかっちゃん。私に合わせて通知を見るのを待ってくれていたりだったとか、うるさいから帰れって言わないところがかっちゃんの良いところなのかもしれない。


「ヒーロー科が駄目なら普通科受け直せばいいだろが」
「かっちゃんと同じ科がよかった」
「普通科でも成績次第ではヒーロー科に移籍出来るって聞いたぞ」
「だってかっちゃんと雄英のヒーロー科行くって約束したんだもん。約束守れなくてごめん」
「…どっちにしろ結果は変わらねーんだから見るぞ」


完全にネガティブモードに入っている私を横目に、かっちゃんは自分の通知を見るより先にあいうえお様と書かれている封筒を手にした。
ちょっと待って、そっちは私の。と言う前に無惨にも封が開けられた私の合格通知。えっと、それ親展って書いてあるけど大丈夫なの?とかツッコミたいけど軽くパニックになっている私はただ呆然とかっちゃんの奇行を見つめていた。


「……」
「ねぇ、沈黙辞めてよ」
「よかったな」
「え?」

え、今、よかったなって言った?頭だけじゃなくて耳もおかしくなった?
かっちゃんから無言で渡された合格通知を上から下までじっと見る。0ポイントだった私が合格なんてなんの冗談だ。いや、かっちゃんはこう言った類の冗談は嫌うはずなんだけど。


「あいうえお殿… あなたは雄英高校ヒーロー科入学試験において該当学科試験に合格しましたので通知します…?え?どういう事?」
「ポイント以外にも選考項目でもあったんじゃねーの」
「な、なるほど?」
「いいから親に電話して来い。ババァには俺から言っとくわ」
「う、うん!」


まだパニック中の私にスマホを握らせて背中を押してくれるかっちゃん。
個性柄仕事が忙しく、国内海外問わず飛び回っていて滅多に家に帰って来ない両親に先ずは合格の報告をしなくては。それから友達や、勝さんや光己さんにもお礼を言わないとな。
まあ色々あったけど、これで私も春から雄英高校ヒーロー科の一員だ。

あ、ちなみにかっちゃんも合格してました。才能マンムカつく。







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