肌にまとわりつく夏の蒸した空気と、流れ落ちる汗に辟易して、夏は嫌いだと呟いた。
「なんで嫌いなん?」
「いろいろと。」
それはまぁ、色々とある。
湿度の高い空気も、止まらない汗も、照りつける太陽も、低く設定された冷房も、全部なくなってしまえばいいと思っている。夏が嫌いだからといって、他の季節が好きなわけではないけれど。
「俺は夏好きやけどなぁ。薄着は楽やし、夏だから行けるところ多いしな。海とか、プールとか。」
先輩は指折り数えながら夏の好きなところをあげていく。
きっとこの人は春だろうと冬だろうと好きなところがいくつもあるに違いない。
先輩があっと一際大きな声を出した。
「あと、財前の生まれた季節やし。」
満面の笑みの先輩はおかしいところなんて一つもないと、そう思っている顔をしていた。
それを見ていると、まだ出会って数か月しか経ってない、しかも男の後輩に言うことではないと思う自分の方がおかしい気がしてくる。
少し嬉しいと思っている自分は無視だ。
「幸せそうでいいっすね、忍足先輩は。」
「それ、馬鹿にしてるやろ。」
「してません。」
先輩がどれだけ夏の良いところをあげようと、肌を焼く日光は好きになれないし、暑いからと海やプールに行きたいとは思えない。
だけど、もし先輩が、夏だからと行けるところに誘ってきたなら、なんだかんだ行ってしまうだろうと思った。
「そういや、好きな季節はないん?」
「……春。」
理由を聞きたそうな顔をしているけれど、もうタイムリミットである。
俺こっちなんで、と軽く頭を下げて家への道を歩き出す。
数分歩いたところで、ポケットの中のスマホが短く震えた。
〔なんで春好きなん?理由教えてや!〕
きっと聞いてくるだろうと思ってはいたけれど、予想以上に早い。
返信を待ちながらそわそわしているだろう先輩へ、ゆっくりと返事を打った。

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