奇襲攻撃なんてこの仕事をしていればよくあることだ。
同盟マフィアの裏切りだって、多くはないが少なくもない。決してあり得ないことなんかではない。
だから、こうして敵対していたはずの男と共に戦う羽目になって、そのまま二人して死にそうになっていることも、珍しくなんてない。
目の前で今にも死にそうになっている男は、早々に生き延びることを諦めた。
いくつもある倉庫のこんな端っこにいるのだ、たとえ連絡がついたところで見つかる前に死ぬだろう。そう思っているに違いない。
こうして彼が少しずつ死に行くのを眺めている自分も、同じような理由でとっくに生きるのは諦めていた。
「……埃くさ。」
まさかそれを最後の言葉にする気かと思った。
どことも知れぬところを見つめていた彼の瞳は、少しの光を持って俺を真っすぐに見ている。
「こんなところで死ぬことになるとは……碌な死に方も出来ない。」
「マフィアなんてやっとる時点で、碌な死に方なんてできひんやろ。」
彼はくつくつと喉を鳴らした。
腹に風穴が空いていることなど忘れてしまったらしい。
つい先ほどまで腹の痛みに苦しんでいたはずなのだが、死とは確かに痛みを消してしまうようだ。

まさかお前と死ぬことになるなんてなぁ、と僅かに肩を上下させ、財前は呟いた。
どういう意味だと聞けば、そのままだと返された。
「俺ら、敵同士やん。……お前、俺と戦う時いつも手ェ抜いてたやろ。」
「……知ってたのか。」
「お、当たった。……知ってたというか、お前、殺気せぇへんから。」
だから、一緒に死ぬなんてないと思ってた。
「……くく、物好きやな、お前……。敵やのに、俺生かしてどないすんねん、あほ。」
瞳にはもう光は無い。
きっともう何も映していない瞳で、彼はずっとこちらを見つめていた。

綺麗な頬が、血と砂で汚れている。
払ってやろうとそっと手を滑らせると、まだ逃げ切らない熱が指先をあたためた。
初めて触る彼の肌は、見た目の綺麗さに反して少しかさついていた。
紺色の瞳は虚ろなまま、未だ閉じられていなかった。
頬に触れていた手を瞼に落とし、そっと彼の瞼をおろす。
自らも目をつむると、瞼の裏に彼の死に際の笑顔が焼き付いていた。
初めて見た笑顔だった。

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