何を考えているのかわからず顔を見ようと視線を向けると、俯いてしまうか、別の方を向いてしまう。
「これ、大事なものだったか?」
財前は床に落ちた茶碗の残骸を見つめて立ちすくんでいる。
粉々に割れた茶碗は、どうやっても元通りにはならないだろう。
「安物やし。大丈夫。」
そう言ってしゃがんで、欠片を一つ一つゆっくりと財前が拾う。
拾い方はとても丁寧で、怪我をしないようにしているようにも見えたが、他に理由がある気もした。
「茶碗を落としたのは俺だから、お前が片付ける必要はないだろう。」
「大丈夫やから。」
優しく言った言葉は、強い拒絶の響きを持っていた。
「大丈夫」と線引きされると、踏み込む勇気が忽ち消えていく。
声色にすら感情の現れない財前の言葉は、時々麻縄で締め付けるように、日吉が財前に踏み込もうとするのを引き止める。
財前は黙々と拾い続けている。
割れた萌黄の茶碗が自分の記憶のように見えて、二人の関係も元通りにはならないのかもしれないと思った。