日吉に夜の相手を頼む理由をそう説明した。
「ありきたりやけど。胸に穴空いてるような気、する。昔からずっと埋まらん。」
キャラに合わへんのやけど、寂しいってことなんかな。そう言う財前の横で、日吉はベッドに腰かけてカーテンの隙間から外を見つめていた。
二人でベッドに倒れ込んだ時は黒一色だった空も、少しずつ白んでいる。
「ドラマなら、そういう相手が見つかるんやろな。」
「そういうものに憧れているとは知らなかった。意外とロマンチストなんだな?」
「ちゃうわ。」
日吉がサイドテーブルに置いていたマグカップを取って静かに立ちあがった。
キッチンへ向かう背中にカフェオレ、と声をかけると、応えるようにマグカップが少し上へ持ち上げられる。
それからしばらくの間、日吉がコーヒーを淹れる音と、肌を撫でる冷たい空気だけが財前の五感を刺激していた。
日吉が戻ってくる頃には雲は橙色や赤褐色に染められて、地平線に近いところは燃えているように見えた。
時計は五時五十分を示している。
「テニスやっとった時はこんなこと思わんかったのに。」
「環境が変われば心境も変わるだろ。中学の時は単に気づかなかっただけじゃないか?あの騒がしい中にいるから余計にな。」
「日吉もそういうんあるん?」
「……無いとは言い切れない。」
考え込む日吉を横目に、カフェオレを一口啜った。
猫舌の財前のために日吉が淹れるカフェオレはいつもぬるめに作られるのだが、朝の冷たい空気が充満する今の時間はもう少し暑くてもいいのに、と思った。
言ったら面倒くさいことになるので言わないけれど。
「昔の俺なら、恋愛関係でもない相手と寝ることはなかっただろうな。」
そう言って、日吉も一口啜った。
何か月も前、駄目元で”お誘い”の連絡をして、それが承諾されてしまったものだから、この中途半端な関係ができてしまった。
それ以来一度だって誘いを断られたことはない。
もし初めてその連絡をした時に日吉が断ったなら、きっと財前の体は綺麗なままだった。
「……日吉以外には連絡できんかったと思う。」
「そうか。」
本当はもう、とっくのとうに胸の穴なんて塞がれていて、それとは違う空しさがあることを日吉に言うことはないだろう。
だってきっと、財前が日吉に連絡をし続ける理由と、日吉が財前の誘いを一度も断らない理由が重なりあうことはない。
体を重ねる時、日吉は財前の名前を呼んではくれない。
最中に視線が重なることもない。
それでも財前が連絡するのは、そんな態度をとりながらも財前を受け入れる日吉に期待しているからだった。