あの子の旅だった日
きゅおん。という聴き慣れた鳴き声に沈んでいた意識がだんだんと覚醒してくる。
うっすらと目を開ければふわふわと波打つ純白が眼前いっぱいに広がった。
手を伸ばして撫でれば深い青の双眸が細められた。
「おはよう…キュウコン」
「きゅおん」
おはようと言ってももうとっぷりと日は沈んでいるんだけど。
暫く大人しく撫でられていたキュウコンは一度部屋を出ていくと再び部屋に現れる、出て行く時とは違い口に何かの紙を咥えて。
「何これ?ネズの字ね……キュウコン、ちょっと出てくるからお留守番よろしくね」
「きゅぉん」
いい子のお返事をしたキュウコンをもう一度撫でてヨレヨレの服からきちんとした服に着替える。
部屋を出ればネズの手持ちのストリンダーとカラマネロがいた。
手持ち0で外に出たということはないと思うからおそらくタチフサグマを連れて行ったんだろう。
モンスターボールの中にはグレイシアがいるし他のポケモンたちに留守を任せて家を出る。
寂れたスパイクタウンは観光客は全然いないけど街全体が見知った顔だから外を少し出れば色んな人が挨拶してくる。それに一瞥しながら手紙に書いてあった場所に向かう。
家から5分、昼はカフェ、夜はバーになる店に入った。
「これはこれは姉さん、いらっしゃいませ」
「こんばんは、マスター。ネズいる?」
「ネズさんなら奥にいますよ。飲み物は何にします?」
「ミックスオレとおいしい水貰える?」
「かしこまりました」
ペットボトルのおいしい水とグラスと缶のミックスオレを受け取り店の奥の席を目指す。
突っ伏しているタチフサグマみたいな男の首にペットボトルの水を押し付けてやった。
「つめって!何しやがりますか」
「人呼び出しておいて先に酔ってる男に言われたくないわね」
「まだ寝てるかと思いました」
「キュウコンに起こされたのよ」
「仕事は?」
「いま校閲中、問題なければ来月辺りに出るんじゃないの?」
「そうですか」
ミックスオレのプルタブを開けてグラスに移す。
モモンやマゴをミルタンクのモーモーミルクで混ぜたミックスオレは甘くて疲れた頭にちょうどいい。
「飲まないんですか」
「徹夜の起き抜けに飲んだら悪酔いする…じゃなくてなんでわざわざここに呼んだのよ、別に家でもいいでしょ」
「マリィが…マリィが旅立って」
「あー…そういえば1ヶ月くらい前にネズに推薦状貰ったって喜んでたっけ…って!なんで起こしてくれなかったの!?」
「オレは起こそうとしましたがマリィが疲れてるんだから寝かせてやれって言いやがるもんですからマリィの意見を尊重したまでです」
マリィの旅立ちの門出が見られないなんて…!!
彼女なりに気を遣ってくれたのは嬉しいんだけど旅立ったってことは暫く会えないなんて悲しすぎる。
「ん?ってことは今日開会式?ネズあなたジムリーダーなのに行かなくて良かったの?」
「ローズ委員長の野郎が主催なのに出るわけなか」
「マリィの事心配でヤケ酒するくらいなのに?」
「ゔっ…」
「ほら、水飲みなさいって」
シスコンなんだからこの男は。
ネズとしても歳の離れた妹を持つと気が気じゃないのは分かるけどそれはもう父親の考え方なのよ。
「マリィだってもう子供じゃないのよ、あなたがあげたモルペコだって立派に育ててるでしょ」
「しかし…」
「あなたはスパイクジムでマリィが挑戦してくるのを待てばいいのよ、「アニキ」」
「…そのアニキってのやめやがれ」
「その方が悪タイプらしいわよ。マスター、お会計お願いできる?」
「かしこまりました」
ミックスオレを飲み干してネズを立たせる。無駄に大きいから肩を貸すのも楽ではない。
マリィのお見送りができなかったのは悲しいけれどマリィがジムチャレンジを突破してネズと戦うのを楽しみにしてよう。
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