常套句






(〜♪)




この時間のインターホンのチャイムはちょっとだけ焦る。

でも今日は分かっているから、すぐに応えた。






『宅配デース。(笑)』



冬の終わりぶりに待ちわびた、調子のいい笑顔がそこにあった。












「何も頼んでません」

『ちょっ、と待って!?開けて(笑)』

「…(笑)、いまいくね」





チェーンを外して鍵を開け、ドアを押すと影が揺れた。





『すまん、遅なったちょっと』

「大丈夫、いらっしゃいませ」

『おじゃましまーす』






相変わらずリュックひとつでやってくる彼は手馴れた様子で鍵を閉めた。








『今日、意外と暑なったらしいやん。いまは寒いけど』


「うん、日中ね。確かに思ったより晴れてた気がする」

『ふーん、大阪もねぇ割と良かったよ。晴れてた』


「そうなんだ」

『うん』





はー、と息を吐き伸びをした彼は、

クルッと振り向いてわたしを見た。






「ん?」


『ん?(笑)』


「…え、やだよ?」


『ヤダってなんやねん(笑)』

「…ちょっと近い。」


『悪いんか』


「ちかい(笑)」


『いいやん、近くて。ずっと電話だけやったやん』


「そうだけど、」


『何ィ』

「お風呂できてるから、先に入ってきたら?」




『…なるほど、先に=B(笑)』






入浴済のわたしを見ておそらく違う意味に捉えてる彼。








『結衣ちゃんも一緒に入ろうや』


「なんでそうなるの?うちのお風呂狭いよ」


『広かったら一緒に入ってくれんねや。ほな次温泉行こ、決まり』


「ちょっと待って。(笑)」


『何?(笑)』


「しげちゃん、自由すぎ」


『自由でいいやん、のびのびとしてて』


「そうじゃない!(笑)」


『あぁ?(笑)』




むにゅっと頬を包まれて、ふてくされた顔を向けると髪を撫でられる。






『…わかったよ、ごめん。(笑)お風呂もらうわ。キレイになってくる。』

「そういう事じゃなくて、」

『わかっとる。オレが悪い。いきなり構いすぎた。(笑)』





服を脱ぎながら向かう背中を見送ると、振り向いた。









『嬉しくてさ、

 はしゃいでもーたよね。ごめん。(笑)』






はは、と笑ってお風呂へ入っていった彼。





「…。」








わたしだって嬉しいけど、あんまり素直に表せられない。


難しい。


ちょっと恥ずかしい。





彼を目の前にすると、口数も減ってしまう。


それは喋りたくないんじゃなくて、目の前にいることが嬉しくて。





信じられなくて。






「…あ、そうだ!」





バスタオル、出してあげないと。



クローゼットの中から先日に洗いたてのバスタオルを出そうと立ち上がる。





前、彼用に買ってずっと使ってもらっているもの。






「…あれ?」



…それが、どこを探してもなくて。

おそらく、収納の裏側に滑り入ってしまったのかも。







『…結衣ちゃん?』

「ん?」


『バスタオル、ピンクやねんけどこれ使っていいん?』



「…!?」





振り向くとまだ体が濡れたままの彼が控えめに顔を出した。




「うん!!使って!いい!

 ごめん、いつものタオルがちょっとなくなってしまって!」


『え、なんで?』



「わかんない、けど、使って!それ!」







厚み、肩幅、…腕の筋。



目のやり場に困る。






慌てて顔を背けながら扉を押し返した。






『ほー、りょうかーい』







扉の向こうで布がこすれる音がしだしてホッと胸をなでおろす。

一番洗いたてだから、きっと大丈夫なはず。







『なー、タオルさー』

「拭いた?」

『拭いたぁ』


「…どうしたの?」

『んー?なんかぁ』






…?














『結衣ちゃんの匂いがする』














「………」

『…え、』

「…」


『いや、別にあの、ほんまの普通の感想言うただけやで!?!

そんなちょっとエッチな気分で言うたわけじゃ!』




「……」


『…結衣ちゃん?(笑)』










恥ずかしくて熱くなった顔を見せまいと、

覗き込もうとする彼から何度も顔を背ける。











『ふーん、そういうことしたって、』


「…、ちょっと、!」


『無駄やぞ。(笑)』






後ろからガバッと抱きしめられて、

両手ごとホールドされてしまい身動きが取れなくなる。






『背中向けたら終わりやで〜こんなもんは〜!』


「プロレスと間違えてない?」


『…似たようなもんやんけ』



「そうやってさぁ、しげちゃんはさ〜?」

『なんやねん』



「いっつも、自分のペースでずるい」


『…ずるいって何?(笑)』




わたしの頬に頬を寄せられると、半乾きの髪が冷たくて片目をつぶった。






『なー』

「んー?」





『…なんでもない。』







すり、と顔を寄せて甘えるように呟く彼と、その手の力。












『ずっとこうしたかった。(笑)

 …いちいち東京の天気ばっかり気にして、

 前、土砂降り予報やったのに傘忘れたことある。(笑)』




「…傘を?」



『東京は1日晴れやったから、そうかと思って。』



「…あほだ〜!(笑)」


『うるさい(笑)結衣ちゃんなんで東京おんねん、はよこっち来いや(笑)』













「……」



『………』



「………」



『………、』













キュッと抱きしめ直される。


少しの沈黙、

きっとお互い、同じようなことを考えていたのかもしれない。








「…」








そうだったらいいなと思って、彼の腕に両手を添えた。








「しげちゃん、」


『…ん?』


「…今日、お布団ジャンケンしなくてもいい?」





『ええよ、別に。結衣ちゃんベッドで寝る?』


「ううん、そうじゃなくて」


『え?布団で寝るん?』






訳が分からない、というような顔で

わたしを見つめている視線を横顔で感じながら、


あの、と切り出す。





「…一緒に寝てもいい?」

『…』


「……、」









テレビくらいつけておけばよかった。


静かすぎる。











『ええよ!?!全然いい!!え、なん、…?(笑)』






その気になった?と呟かれて彼を見た。










『わー、ごめんごめん(笑)』






上げてもないわたしの手をガードするふりをしてじゃれつつ、

どさくさで腕を引かれ正面から抱きしめられる。










「…、しげちゃ、」




『…あー。ほんま、ずっとこうしたかった』











ふぅ、と落ち着けて擦り寄る。










『もっと早く来れば良かったなー、(笑)』

「そういうこと言われなくなったらおしまいだなぁー(笑)」


『思わん時がきたら、そん時はそん時や(笑)』


「…、」






一瞬心に詰まるものを感じたような気がするけど、

彼に身を委ねながらゆっくり瞬きをした。








「…しげちゃん、明日になったよ」


『…ん?あぁ…、しーちゃんさん』


「…うん、しーちゃん」


『りょーかい。昼?』


「ううんと、…うん、たぶん」




『…オレさー、怒られるかな?(笑)』

「どうして?(笑)」


『…なんとなく。(笑)』






緊張するわぁ、とはにかむ彼の頭をぽんぽん、と撫でた。




「大丈夫、大丈夫。(笑)」


『わぁ、励まされてる〜(笑)』







わたしを抱きしめたまま横に揺れる彼。









『はよ寝なあかんな』


「うん、寝る!」


『…』



「…、ね、寝るんだよ」






じっと見下ろし見つめてくる彼の顔が近づいて、何度か唇が触れる。







『…久しぶりやし、少しくらいさー。』





唇を尖らせた彼が呟く。


その頬に手を伸ばして、むにゅっと引き伸ばした。





「…じゃあ、すこしなら」





彼の胸に顔を埋めた。



***