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…
「わたしはどうしてあんなに警戒されてたの?(笑)」
「…え?そうかな?(笑)」
「うん、すごい警戒されてたし、びくってなってたような(笑)」
わたしを連れ出してすぐ、ちらりと後ろを振り返りながら続けるしーちゃん。
…
「重♂ェくんなんだ?」
「ん?」
「しげちゃんしげちゃん、としか聞いてなかったから、
まさか苗字のほうからだとは思ってなくて。(笑)」
「…そっか、言ってなかったか」
「うん、言われてないです」
大きい水槽の前を歩いて、
後ろを振り返れば彼と安田さんはすこし打ち解けたように見えた。
「うん、重岡くんです(笑)」
「下の名前は?ダイスケだっけ?」
「大毅」
「なんでずっとしげちゃんって呼んでるの?」
「…だって、最初の時にしげって呼ばれてるから≠チて言われて。
でもそんなに急に、と思って最初は重岡くん。で、しげちゃん」
「ふーん」
「…、うん(笑)」
しげちゃんは、今のところ特に何も言ってこないよ?」
「えーでも、どうせ思ってると思う。(笑)
付き合ってるのにずっとしげちゃんかーって」
「んー、そうなのかなー」
「そうじゃないの?」
「…わかんない。けど、ちょっと今更恥ずかしいかな、(笑)」
唇を噛むわたしをちらりと見やる。
「例えばの話ね」
「例えば」
「…しげちゃんにプロポーズされたらどうする?」
「……え?どう、するって?」
「結婚したいとは思わない?」
「…そんなことないけど、…」
「…わたしは一緒にいたいから、プロポーズされた時嬉しかったよ」
昨秋、披露宴で見たふたりはすごく幸せそうだった。
「…プロポーズって、どんな…、?」
「…結婚しよ、って」
「それだけ、?」
「…んーん、…一緒に歳とってこ。って。」
「…」
「…、(笑)」
恥ずかしいね、と笑うしーちゃんはペンギンの水槽を見つけて指さした。
「すごく近くで見られるから、一番楽しみ(笑)」
照れ笑いながら呟くしーちゃん。
「眉毛くんはさ」
「え、眉毛くんとは…?(笑)」
「眉毛くん。(笑)」
「しげちゃんのこと?(笑)確かに、印象強いかもだけど(笑)」
「あと歯も。
前に写真見せてもらった時より絶対増えてるんだけどいつから増え始めたの?(笑)」
「本気で言ってる?(笑)」
「(笑)、半分冗談だよ」
「でも!かわいいところもいっぱいあるよ!」
「どうした!(笑)」
「…!」
ハッとして口をつぐむと、みるみる恥ずかしくなって顔が赤くなる。
「…優しいし、ちょっと自由だけどそんな所も」
好き。
「…よかったね、結衣ちゃん。
好きかもしれないけどどうしよう、からそこまでになったんだね」
「…そんなこと言われるとちょっと恥ずかしい。(笑)」
「でも本当に、重岡くんとこんなに何年か続くなんて、」
「…やっぱり、相談した時半信半疑だった?」
「うーん、半信半疑というよりは、
変な人だったら本当に背中押したくないって思ってて。
でも大阪にいるんじゃわたしは会えないじゃない?」
*
『はじめまして、重岡大毅です。』
水族館後に選んだ和食料理屋さんで夕ご飯。
わたしの隣に座った彼と、その向かいに安田さん。
隣はしーちゃん。
「安田です。ふたりの話はしぃからたまに聞いてて。
特に結衣ちゃんは、結婚式にも来てくれたし。ありがとね。」
「いえいえ、素敵な式でした」
物腰柔らかい、優しい雰囲気と笑顔。
誰にでも、ずっと変わらないから素敵な人なんだと思う。
「…」
しーちゃんのじっと見つめる先で視線を感じた彼が、ぴくっと肩を揺らす。
「…?」
『…(見られてる)』
少し笑いながら口だけ動かした彼がおしぼりを端に避けた。
「重岡くんって」
『…えっ、あぁ、はい。?』
「いつから結衣ちゃんのこと好きなの?」
『えっ!?』
「し、しーちゃん?…、?」
一瞬わたしに視線を向けて、続ける。
「知り合った日にはもう良いなぁとか思ってたの?」
何を聞き出すのかと、
わたしも聞いたことないようなことを突然切り出すしーちゃんに、
安田さんも頷いた。
「そういうのはめっちゃ興味あるなぁ、おれもさっき話してたんよしげちゃんと」
「しげちゃんくんと?」
「うん、気になったからぁ」
『いやぁー、…よくないすか?(笑)』
「え、全然良くないんだけどな、しげちゃんくん」
『…えぇ…だって、さぁー、ねっ!(笑)』
はにかみながらその先を言おうとしない彼に遅れて頷いて、
「恥ずかしいからいいよ…、(笑)」
そう呟くのが精一杯。
安田さんは少し考えて
「でもさ?知っといたら嬉しくならん?」
「しげちゃんくんは、
大阪に来るなら声掛けて〜みたいな時から好きだったの?」
『!?なんで知ってんすか!?!』
「結衣ちゃんのことは何でも知ってるから」
し、しーちゃん…、
「…」
たまらず彼をちらりと見ると、
なにか言いたそうにする横顔はちょっとだけ耳の端が赤くなっている。
「…」
『…』
恥ずかしい…
『…えー、待って、いつからやろ(笑)』
こめかみを掻きながら、うーん、と唸る。
もう彼の顔は見られなくてじっと手元を見ていた。
『気づいたら、(笑)』
「甘い、聞きたいのはその先」
「しぃ(笑)」
「だって、本当に思うんだもん。
一緒にいるなら大事にして、幸せになって欲しいって」
『…ちょっと控えめなところ…とか、正直最初はそんなに興味持たれてなくて。
連絡先交換したのもその場の流れというか。
それなんで、ほんまにいつからっていうのは明確に切り替わる瞬間がなかったから、』
「ふぅん、」
『けど連絡してみたら、返してくれたし』
「うん」
『…続くかなぁって、』
あの時のオレは就活終わったし、好きな子とかおらんかったし、
せっかく東京遊びに来たから先輩とご飯は食べようと思ってて、
そこに居合わせた子なら悪い子じゃないと思ったし!』
「子、って(笑)」
『いや、ほんまに!…友達から始められたらって思って、』
わたしのほうは見ずに、安田さんとしーちゃんへ向けて。
『素朴で純粋そうな感じとかジブリっぽくてかわいいしっ、』
「…」
「…」
「…」
『…え、?』
ぴたりと動きを止めた周囲に固まる彼は何かを察し
『…ジブリ…見たことない、です?』
「どんな逃げ方なの、それ(笑)」
「見てた見てた!おれ見てたで、魔女宅とか(笑)」
『結衣ちゃんは主人公の隣の控えめな子なんすよ』
どういう、
『ホウキで空飛んだり、トトロと遭遇したり、カオナシに追われたりせえへんから
全体で見たら目立たないかもしれないですけど、
気にして見たら、一度気になったらもうそこだけっていう、やつ』
「…しげちゃんくんもよく分からない例えをするね」
「も、って何?(笑)」
と目を合わせ、笑い合うしーちゃんたち。
『そのくらい、気付いたら…。
でもオレも、でっかい城動かしたり空飛んだり、
特別なことはできひん普通の人間やから、
そういう世界をキラキラした目で見る結衣ちゃんを好きになったんかな』
「…、」
テーブルの下の死角で触れた指先からそっと手を重ねられる。
『、っていう(笑)』
***