抱きしめたい






「…今日の新幹線、いつもより遅めなんだね?」


『そー。早く予約したつもりやったけど、既に夕方はいっぱいやった。

 Uターンラッシュやし?』

「…なるほど!そっか、」



電車に揺られながら結衣ちゃんの手を広げた。













『下手っぴすぎてめちゃくちゃおもろかった(笑)』

「うるさい〜(笑)」

『あはは(笑)』

「笑いすぎっ」


『…痛くない?

 もし変な感じしたら、消毒して、触らんようにせなあかんから。

 結衣、皮膚柔らかいからな〜』





バットを握った両手のマメが気になってみてた。



「…そんなことないから、大丈夫。

 明日筋肉痛かな、(笑)」



『やな(笑)しんどいよ、ココとかココとか(笑)』



つり革から片手を離して前に座っている結衣ちゃんに触れると、

顔を上げてふわっと笑った。



「筋肉痛かぁ〜、連休明けに筋肉痛…、、」

『毎日通って練習したら?(笑)』

「野球部みたい(笑)」

『うまなるやん』

「でも、1個は当たったもん」

『ビビり倒して変な声出てた(笑)』

「出るよ!(笑)」





どこまでも意地悪なことばっかり、と唇を尖らせる。


東京駅まで向かう緑の電車のその中で結衣ちゃんは、

座らなくていいの?と何度か聞いた。



『元気やし、男やねんからええねん』


女の子を立たせる訳にはいかへんしね。





そう思っていた矢先、結衣ちゃんの隣が空いた。






「…」







目で訴えてきた結衣ちゃんに周りを見てから隣に座る。




「…しげちゃん、しーちゃんが一昨日はありがとう≠チて」

『あーほんまに。でも怒られなくてホンマによかった。(笑)』

「なんで怒られると思ってたの?(笑)」




何かしたの?と聞く。








『…取ってもーたから』

「…何を?」

『ん?』

「何を…?」

『…結衣ちゃんを(笑)』





「…。」






何も言わずに画面に指先を滑らせる結衣ちゃんの横で、

携帯の画面を一緒に覗きながら肩を寄せた。




「取られたつもり、ないけど」


『オレが入ることによって一緒にご飯行ったりする時間、減ったっしょ』


「…」


『でも結衣ちゃんの事やから、

 きっと友達との付き合いもうまくこれまで通りにしようとしてたんやろなと思って』


「…うーん、意識してたことはないけど、」



『オレは友達のことも優先させてあげたいし、

 結衣ちゃんがそうで、今回も?紹介してもらえてよかったーって思ってる。

せやし次は、オレも、友達に会ってほしいなーって思ったよ。』


「友達、…大丈夫かな、わたし(笑)」


『やぁそれはさ、付き合ってる子ですって言うやんか(笑)

 大丈夫かなって、なに?(笑)』



「でも前、敦子さんのお店で会った時すぐふすま閉めたじゃん?」

『あれはだって急やったし、茶化すみたいな空気がめっちゃ嫌やってんもん!(笑)』

「…(笑)」



そっか、と頷いて笑う。




「…ジブリでいいの?」


『え?(笑)』


「…ジブリの、しかも主人公じゃなくて、

 主人公の隣の子だけど、いいの?」





あの後、一緒に帰りながら、

時折なんとも言えない表情を見せていた結衣ちゃんに、


どう伝わっていたのか少し気になった。






『主人公の隣でも、オレが主役やと思えば主役やから』

「…」





何となく腑に落ちないような顔をするから、

バッグを抱く手を引いて右手だけ空けさせ、そっと握った。



やっぱり柔らかいし、指の付け根付近の手の皮膚が熱い気がする。







『…無理した?』


「…何を?」


『バッティングを』


「…でもやってみたかったし、」





指と指の間に入れ込み、そっと、そーっと。






結衣ちゃんも握り返してくれて再び握り直す。





あと15分ほどこうして過ごせば、東京駅。







『…今月は、もう会われへんかなって思ったんやけど』

「…うん。」


『…やっぱ、来てもいい?誕生日』


「…誕生日?わたしの?」


『うん』




「え、でも、…平日だし、」

『そうやねんけど、有給消化残ってるし』





一緒に居りたいし。



『それまで仕事頑張るから。…泊まっていい?アカン?(笑)』

「…」

『…』

「…」






電車が大きく揺れて、腕に結衣ちゃんの肩が触れた。

そのままの格好で寄り添われる。







「…揺れたから」


『…ん?』



「…揺れたから、だよ」





普段はこんなことしない、とでも言いたいんやろ。


足と足の間では手を握り合う。








「…主人公じゃないのに、わたしのことを見つけてくれたんだね、しげちゃんは」


『…』



「…、ちょっと嬉しかった」


『…ちょっと?(笑)』




「…うん、ちょっとだよ」






少し照れ笑った振動がくすぐったくて一瞬だけ頭を寄せて、離れた。










「…主人公にしてくれて、ありがとう、(笑)」



『…(笑)』









「わたしね、しげちゃんのことは、

 …しげちゃんが作る、オムレツの次に好き」




『やーでもさ、そのオムレツってオレありきやから実質オレが1位やな』

「…うるさい」

『(笑)』





はいはい、と呟きながら親指で手の甲を撫でる。



好きとか、愛してるとか

そんなやり取りさえも超えていく、


この体温に触れる意味。




寄り添う意味。














ずっと一緒に居れたらいいね。













『…』







安田さんの言葉を思い出し噛み締めながら、自分の中で決意が固まっていく。







『…』



幸せになんて、出来るかどうかわからん。


正直、また泣かすやろし、怒らすやろし、




今まで以上にいろんなことがあると思う。





それでもオレは、







我儘な程に、結衣の傍にいたいと願う。


















トン、と肩に甘えられた時、


ふと見ればうとうとしている結衣ちゃんの姿。






東京駅まであと5分。




話したいけど、隣でそっと寝かせてもあげたい。






『…』





あの日の、あの時。

出会わずにいたら交わることのない人生やったんかなと思っても、


その場合のことを今は考えられへん。









「…しげちゃん、」



 …東京駅に着いたら、ちょっと急がないとだね、」












ごめんね、と呟くのは眠っていると思っていた結衣ちゃん。






『大丈夫、もう東京も慣れたわ。(笑)』


「…(笑)」






すごいね、と笑う結衣ちゃんが少し体を離した時、電車のドアが開く。





リュックを持って歩き出すオレは結衣ちゃんの手を引いた。






「…、?しげちゃん、こっちの階段からもいけるよ、」

『うん、そうやねんけど』







「…え、…?」








グイグイ腕を引いて、階段の裏側に回って振り向く。



一瞬だけ目を合わせて、顔を近づけた。












「…えっ、ちょっ、!」










チュッと唇を重ねて離れた後、

あとから降りてきた乗客が溢れ出すホーム。









「…」


『…おし、行こか。(笑)』





「…もー、やだ!」

『なんでや!見られてないやん!』


「そういう問題じゃないからね!」






ぺちぺち腕を叩かれるから、その手をとって握った。





会いに来るよ、また。





その気持ちを手に込めて、優しく握りこむ。










「…」



さみしい顔をさせないためにも。



『…ギリギリ、やな(笑)』










この先の人生を、

ふたり一緒にいられる未来をつくる。






もう決めた。








「しげちゃん、お家ついたら連絡してね、?」


『結衣ちゃんもな。…おやすみ(笑)』





ぽん、と髪を撫でた手で手を振る。



ホームへの階段を駆け上がりながら強く心に決めた。









結婚しよう、かならず。





きみと。






***