長ネギと油あげ




『結衣ちゃーん♪』

「………!」



飲み干した缶ビールを片付けた彼が、掛け布団をめくってするりとベッドに入り込む。


『失礼しまーす!(笑)』

「さむい、つめたい、足!」

『一緒に温まろーへっへっへ』





もそもそ…




『なんなん?冷たくない?なんでなん?』

「冷たいのはしげちゃんの手足…」

『めっちゃ温かいやーん(笑)』

抱き枕をかかえて寝ていたわたしを、背中からお腹に手を回して控えめに抱き込む彼。


『結衣、体温高いよな』

「…やだー!つめたいー!(笑)」

『あったかーい!幸せぇー(笑)』




もそもそ…





『…はぁ』

「…突然のため息」




少し振り向こうとしたけど、彼は後頭部にぴったり寄り添うからそのまま。



『…』

「…」

『……』

「…こら」



『…(笑)え?』



「え?じゃないでしょ(笑)」



少し黙り込んで、もそもそと動いた彼の手を制止。

手の甲に重ねるように止めたのに、スッと抜かれたその手はわたしの手の甲に重なって、握られる。





『…結衣』

「…ん?」

『…ん?…んーん(笑)…なんもない』


やわやわと何度か握り直される手をそのままに、彼の名前を呼んだ。




「…振り向く」

『…すっぴんやろ?』

「だめなの?!」

『ごめんごめん(笑)そういうんちゃうやん、最近強なったなぁなんか(笑)いいよ、はい。…ゆっくり』


「…」



大きくなってきたお腹で今まで通り寝返りをしようとすると、背中や腰がお腹の重さで痛くなったりうまくいかない。




ゆっくり、そっと。


「…」

『…』



思ったより至近距離で目が合ってしまって、ふたりして笑った。




「おかえり」

『…ん、ただいま(笑)』

「ビール飲んだの?」

『飲んだ(笑)』





歯磨きもしたよ、と呟く彼の口元につられて笑う。




「あのビール美味しかった?パッケージが可愛いから買ってきたの」

『変わったヤツあったけど、それじゃないのにした』

「えー!」

『えー!って(笑)だって、感想言いたいやん』

「聞くよ、今でも聞く。」

『寝てると思ったから』

「寝てたけど、しげちゃんが帰ってきた音がして目が開いた」

『起こしたんか、ごめん』

「ううん」





首を振ると、枕で髪が擦れる。

瞬きをしながら彼の顔に手を伸ばした。


「…」

むにっとへこむほっぺ。



『…何?(笑)』

「なんでもない」

『なんでもないんや!?(笑)』

「あのね」

『…うん?』

「そのビールを買う時に、店員さんにこれアルコール入ってますけど大丈夫ですか?≠チて聞かれたの」

『年確?(笑)』

「ううん、さすがにない(笑)たぶん、お腹見たかストラップ見たか」

『あぁ*目立つようになってきたからな』

「…そう思う?」

『うんまぁ、思うよー』

「旦那さんが飲むのでーって言ったら、買わせてもらえたけど」

『心配したんかもな、もしかして知らんかったらぁって』

「うん(笑)…でも、アウター着てても分かるようになってきたんだなぁと思って」

『おっきなったもんだって』

「…どうしようかなと思ってるの」

『何を?』

「…年末年始のこと。実家帰ろうかなって話してたけど、」

『…え、やめんの?』

「うーん、…だって迷惑かけちゃいそうだし」




東京に着いてからも、まだ乗り継いでしばらく距離のある実家。


『…でも、帰りたいやろ?オレのこと気にしてんねやったら、全然大丈夫やから。結衣がしんどいとかなら考えてもええけど』



大晦日から元旦にかけてを彼と実家に帰省する計画を立てていたけど、漠然としつつもある一抹の不安。

お腹に赤ちゃんがいるのが分かってから一度顔を見せたものの、体力とか気持ちとかの面で、色々と自信をなくしていたりする。



「…うーん、」

『ええよ?心配するだけ何もないと思うけどな。大丈夫や。…なー?(笑)』




わたしのお腹を撫でながら声をかける彼。



「…」

『…(笑)、大丈夫やって。任せろ。迷惑かけちゃうーとかそんなんはホンマに気にせんでええねん、むしろオレに迷惑かけなかったら誰に迷惑かけんねん(笑)』

「迷惑だと思ってる?!」

『ちゃうってば!(笑)』









「…なに?」


突然、ぎゅっと抱き寄せられて彼の胸に顔をうずめた。




『…ううん(笑)別に?』

「……」



わたしの頭をゆっくり、何度も撫でる彼の手。




『はぁー、…頑張ろ(笑)』

「…ん?」

『…こっちの話。』



喉元が動いた。


胸に頬を寄せると、彼の心臓の音が聞こえるような気がする。



「…、」



『忙しぶってるから、言いにくいんかもしれへんけど』

「…」


『甘えていいよ?甘えられないと、なんか寂しい(笑)』

「…寂しい?(笑)」

『寂しいよ(笑)』



眉を下げて笑って、わたしを見つめる。




「…寂しがり屋さんなんだね(笑)」


『知らんかった?オレまあまあ寂しがりやからな(笑)』



くふふ、と笑う声。



『来年はもうちょい頼られたいなー、体鍛えようかな*?』

「マッチョになっても、頼りなかったら頼らないよ」

『…じゃあどうしたらええのん』




唇を尖らせた彼が可愛くて笑った。





「…はぐして」

『ハグぅ?(笑)』

「…して?」

『ええよ(笑)』




違うリズムで刻む鼓動が、一体化したみたいな、共鳴し合うような、不思議な安心感がある。





「…」

『……』

「…」

『あったかくなってきた、(笑)』

「…あったかい?」

『結衣は?寒ないか?大丈夫?』





背中に回っている彼の手が、わたしを何度かさすった後でふとんをかき寄せる。





「大丈夫、あったかい(笑)」

『…ほんなら、このまま寝よ』







カチ、カチ…と壁掛けの時計の針が進む。


薄暗い部屋の中でふたり、身を寄せあって同じベッドの中。




「…」



まだ起きていて、と甘えるのも忘れてしまうくらい心地いい彼の腕の中から、彼の寝顔を見つめた。



『…』


すぅ、すぅと彼の寝息が聞こえる。


「…わたしにも、頼ってよね」



サラサラの前髪を撫でて、そっと頬を包む。



思ったよりも、ずっと、繊細な彼のことだから。





「…頼りにしてるよ、旦那さま」



唇の端に口付けて、顔を寄せ、目を閉じた。






「おやすみなさい、」



明日の朝は、彼の好きな具材でお味噌汁を作ろっと、





***
2018.12.27