満月の夜なら
「えっ」
音楽特番を見ながらご飯を食べていて、浮かび上がった通知に驚いた。
「…大丈夫かな、」
すぐに手に取り、指を滑らせる。
***
寝られるわけがない。
今終わった
そっち着くの、多分日付変わると思うわ。
先寝といて
「…」
お風呂を済ませて、ひとりでどうしようか考えた。
年末、しかも、三連休前の金曜日、さすがに忙しいと思ったけど、無理してさえいなければ来てくれたり会えるのは嬉しい。
…でも、
《振り替えられるなら、来るの明日でもいいよ?》
ネットでやって、最終の1本前に変えた
《大丈夫?》
部屋着忘れた
そんだけ
なんかある?置いてたっけ?
「…」
LINEを読み返しながら、既読がついて終わったのを見てテーブルに置いた。
「うーん、」
もし寝ちゃったら…、
「寝る時にシャツのままは寝づらいよね」
ひとりで呟いても、シュッと消えていくだけ。
クローゼットの中に入れて置いた紙袋の中には、クリスマスの包装が施された彼へのプレゼント。
偶然にも、中身は部屋着にでもしてくれたらと思っていたスエットの上下。
「…開けちゃう?」
でもなあ、と迷う。
「…開けちゃうか」
ガサゴソと紙袋を畳んで、その上に包装されたプレゼントを置いた。
引き出しからカラーペンとメモ帳を取り出して、横髪を耳にかける。
「…しげちゃんへ、」
キュッ、キュとメモ帳に綴る彼へのメッセージ。
これじゃあ、寝る準備をしてるみたい…、
それに
「…どんな反応するのか一応見たいな…」
とはいえ、彼が置いていったのは夏のTシャツに半ズボン、あとこのパーカー。
「…」
汚しているわけじゃないけどさすがにちょっと着させて貰ったのをそのまま渡すのは、わたしに抵抗がある。
「…洗っておけばよかったな、」
きっと新幹線の中で寝ちゃってるんだろうなと思いながら、支度を進める。
「ご飯食べたのかな」
急いで乗り込む前までの彼は、バタバタしていてLINEのやりとりも途切れ途切れ。
とても聞ける余裕はなかった。
改札内のコンビニに寄れているといいなぁ。
「…漬物とご飯と、お味噌汁しかない」
最悪、卵と少しずつ残ってる野菜でなにか作れるかな… こんな時こそ5分クッキングだ!
何となく落ち着かなくて今日はシャワーだけで済ませたお風呂、湯船を掃除してお湯を張る。
夜も遅くなのに活動的でちょっとおかしい。
「…」
時折携帯の画面を確認しながら、時間を把握した。
「外、寒そうだな」
仕事終わりに新幹線に飛び乗って、会いに来てくれる彼のことを思うと申し訳ない。
けど、
こんな生活ももうすぐ終わって
「…」
あと少ししたら、彼とふたりの生活が始まる。
不安はある。
不安しかない、という気持ちの時だってある。
わたしが彼にしてあげられること、何があるかな。
いつもいつも、してもらってるばかりのような気がする。
希望を叶えてもらってばかりのような。
「…チャンプルーって、ゴーヤ入ってなくてもチャンプルーなの…?」
ひとり、テレビに話しかけながらメモ帳にレシピを箇条書き。
少し眠たい。
「…」
なんとなく寝られずにいるのは、色々な理由がある。
まずは、彼が無事に到着するか、そしてもしご飯を食べていなければ何か作ってあげたい。
そして、最大の自己都合。
「…」
寝顔に自信が無い。
…それ。
「…あっ」
パキッと折れてテーブルの端に転がっていったシャープペンの芯。
指先でつまんで、ティッシュの上に置いた。
この期に及んで…と言われるかもしれないけど、実はあまり見られたくない。
たまに誰かが言う、先に寝ないし、先に起きるって共感する。
口を開いていたこともあるし、夢の中と同じ動きをしていたこともある。
寝相こそ悪くないものの、寝言も動作も結構アクティブなことは友達から聞いて分かってる。
「…どう思ってるんだろう、」
もう絶対分かってるんだろうな。
…聞けないけど。
「…」
思い出した途端に恥ずかしくなってきた。
一緒に暮らし始めたら、絶対、彼より後に寝て先に起きるんだ。
時計が0時を回った頃、携帯に通知が来た。
「!」
手に取って開くと、彼からのメッセージ。
起きてる?
「…しげちゃん、寝てたな(笑)」
《起きてるよ》
今乗り換えた
《りょうかい》
《気をつけてきてね》
走っていくわ
電車が(笑)
「…なにそれ(笑)」
ベッドにうつ伏せで転がる。
「あ、」
そうだ。
《しげちゃん、ご飯食べた?》
食べたよ
「おぉ、よかった」
《わかった》
《よかった》
瞬きをしながら、片手で返事を打ち続ける。
頭がぼんやりしてきて、返事を考えている途中にも寝落ちしそうになる。
「…もう少し、だぁー」
寝ない寝ない、頑張る。
「…がんばる、」
鍵置いてきたかも
「?!」
絶対、起きてないと!
「…」
目を擦りながらベッドから降り、それを背もたれにまたテレビをつけた。
今改札
《最終?》
ぽい
危なかった(笑)
事細かに居場所を伝えてくる彼。
《怖い話のお人形みたい》
何それ?(笑)
《こわいから、しげちゃん来てから話す》
えー気になる(笑)
はやく、はやく。
「…」
眠たいのに、心がすごくわくわくしてるのが分かる。
来てくれたらすぐに、クリスマスプレゼントを渡す。
お風呂に入ってもらう、
それから少しお話もしたい。
「…」
やっぱり嬉しくてたまらない、会えること。
その度に彼のことが好きだと実感させられる。
「しげちゃん」
部屋にインターホンの音が響く。
「…!」
ついた
携帯の画面に浮かぶ、そのたった3文字に緩む顔は隠せない。
鍵を開けて、チェーンを外して、ドアノブを動かしながら押した。
「しげちゃ、…っ!?」
手が見えた、顔が見えた…目があったかどうかは分からないくらいの間合いで抱き寄せられる。
『ただいま。』
「…え?」
『…って、はよ言いたいなって思って(笑)』
玄関のドアは彼が入って自然に閉まった。
外気にすっかり冷えた彼のアウターに頬を寄せるようにして抱きしめられたまま、こめかみに当たる彼の頬。
『…さーむかったぁー(笑)』
「…うん(笑)、」
ポンポン、と背中を撫でる。
「おかえりなさい」
『…』
「…ん?」
『…いや、…そっかと思って』
「…?」
『一緒に暮らし始めたら、ほぼ毎日聞けるんやろ?さっきの』
最高、と小さく呟いて笑った彼。
「…しげちゃん、」
『ん?』
「少し早いけど、クリスマスプレゼント」
『え?』
「…を、サンタさんから…預かってます…」
『サンタさんから?預かってる?(笑)』
へたくそ、と 笑いすぎな彼にどんどん恥ずかしくなって、顔も赤くなる。
『ありがと、結衣サンタさん(笑)』
「…どういたしまして」
『オレもサンタさんから預かってるけど、』
その前に、と彼がわたしの動きを止める。
『今夜は、…ハグだけ?』
***
2018.12.21